By ALASTAIR GALE 2015 年 7 月 29 日 19:00 JST
北朝鮮の外交官に、なぜイラン式の核協議に関心がないのかと問うてみれば、中東の別の国を理由に挙げるかもしれない。
それはリビアだ。
リビアでは2003年に当時のカダフィ大佐が大量殺りく兵器を廃棄することで合意した。だが8年後、この独裁者は生まれ
故郷シルトで殺害され、悲惨な最期を遂げた。
北朝鮮はリビア国内の革命派支援を目的とした西側諸国による介入について、カダフィ大佐の「核降伏」による致命的な
結果だと受け止めている。2011年にカダフィ大佐が殺害される数カ月前、北朝鮮の国営メディアは外務省当局者の話として、
「リビアが核兵器をあきらめつつあることが世界の隅々に示された。(このことは)同国を武装解除させるための侵略戦術として
(米国に)利用された」と伝えた。
金正恩氏はカダフィ大佐が反カダフィ派によって殺害された2カ月後に政権の座に就いた。核兵器問題を交渉の手が
及ばないところに置こうと決めた金氏の決断は、カダフィ大佐と同じ運命を避けようとする保険のように見えなくもない。
北朝鮮の核問題が交渉不可能であることは28日に北朝鮮の駐中国大使によって繰り返し強調された。AP通信によると、
同大使は北京での記者会見で、北朝鮮は「名実ともに核保有国である」ことを理由にイランとは違うと指摘した。
ただ、北朝鮮は常に強硬だったわけではない。正恩氏の父親である故・金正日氏は自国の核開発能力を、米国を
はじめとする諸外国から支援と安全保障を得るための交渉手段として利用した。だが、正恩氏のもとでは、経済成長
とともに核の脅威を拡大することが国家の優先課題となった。
交渉相手国との合意が崩壊した場合にイランが核爆弾の開発を一気に始める「ブレークアウト」のタイミングについてアナリスト
や政治家が分析するなか、北朝鮮とイランの根本的な状況の違いが浮き彫りになっている。それは、北朝鮮はすでに数多く
の爆弾を保有しており、さらに兵器を増やす強い意志があるということだ。
またイラン式協議プロセスの可能性を排除しているもう一つの重要な違いは、国際的な交易や通常の外交関係から疎外
されている北朝鮮に対して、西側諸国は影響力を発揮する手段を持たないということだ。イランに対する厳しい経済制裁は
同国を交渉テーブルにつかせる一助となった。だが北朝鮮に対する経済制裁はこれまでのところ、同国指導部による戦略決定
の変更にほとんど影響を与えていない。
(中略)
北朝鮮からはネガティブな強いシグナルが出ているにもかかわらず、合意にこぎつけた前例がある。2012年2月、非核化交渉
を控えていた北朝鮮は米国と核開発プログラムの凍結で合意した。だが、この合意は長くは続かなかった。金正恩氏が完全
に権力を掌握する前に計画されたのであろうこの「うるう日」の合意は、その2週間後に北朝鮮が長距離ミサイルの打ち上げ
実験を行ったことで破られた。
米政府関係者はこの合意が破られたにもかかわらず、北朝鮮を再び交渉テーブルにつかせるために全力を尽くしていると
話す。しかし、非核化交渉への関心を北朝鮮に見いだすことは、ある人の言葉を借りれば「火星に生命体が存在する証し
を探す」ようなものだ。
http://jp.wsj.com/articles/SB10087023822292513792204581137841505181496