藤村 厚夫(スマートニュース執行役員)
筆者の関心分野は新しい技術のトレンドによってメディアはどう変化していくのかということだ。最近「2020年にメディアはどうなっているか?」と取材などで問われることが度重なっている。東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと5年となり、近未来予測に切迫感が増してきたからだろう。
また、メディアを巡る環境の変化が加速していることなども影響しているようだ。フェイスブックやアップルなどが次々と既存メディアを揺るがす取り組みを仕掛けているのはその一端だ。
さて、5年後という近未来にメディアにおいて間違いなく重要な役割を果たす概念が「ロボット」だ。人間に代わり、人間に近い働きを行う存在であるロボットがメディア、特にジャーナリズムに及ぼす影響は今後無視できないものとなる。
ロボットと聞いて、人間に似た形姿を思い浮かべる必要はない。現代のロボットは、人の目に見えない姿でずい所に活躍している。「アルゴリズムが変える社会生活 透明性の確保」(14年10月27日)で述べたように、人に代わって大量のデータを処理し、高速に判断を下すソフトウェアはロボットといえる。
例えば、スマートフォン(スマホ)用のニュースアプリ「スマートニュース」も、人の手では扱い切れないほどの数多くのニュースを、ロボットがインターネット上から収集しては、人に代わって取捨選択を高速に判断している。
こうしたロボットによる編集・編成に次いで現実味を帯びてきているのが、ロボットによる記事の執筆だ。
人工知能(AI)研究を強みとするベンチャー「オートメイテッド・インサイト」社や「ナラティブ・サイエンス」社などがロボットによる記事執筆技術を実用化している。
オートメイテッド社の技術はすでにAP通信などに使われ、企業が発表する業績情報を高速に分析してはニュース記事として配信している。記事の数は四半期で3千本を超えるという。
最近になり、大学スポーツの試合結果などのニュース配信も始めたと発表した。文章が比較的定型で、コストが合わず人手による執筆を振り向けられないような分野で実用化が始まっている。
ロボットによる記事執筆は、ニュースのあり方を根本的に変えるかもしれない。つまり、たった1人しか読まないかもしれない記事を、多量に生み出す「ニュースの多品種少量生産」が現実になる。
ロボットが読み応えのあるニュース記事を執筆することはないが、1人のユーザーのためにニッチなテーマのニュースを延々と提供し続けることが可能になる。
スマホに始まり、メガネや時計の形をした情報端末が24時間、消費者の近くにある時代が現実のものとなった次は、その利用者1人ひとりに専用ニュース情報を文字や音声で届け続けるメディアの時代がやってくる。
いずれ、腕時計型の情報端末に「で、あの試合結果どうなった?」と問いかければ「3対0で勝ちました」と、即座に教えてくれるニュース機能がごく当たり前のものとして装備されるようになる。
問題は、そのようなサービスが各種メディアや報道機関の事業として維持され続けるのか、あるいはグーグルやフェイスブックのようなテクノロジー企業の中核事業になるのかだ。メディアにとってこれまた占うべき大いなる眼目だろう。
「ロボットジャーナリズム」 多品種少量の記事、現実に:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO88862440T00C15A7H56A00/