総理がそれを言っちゃあ…
官邸記者クラブのキャップが集うオフレコの懇親会、いわゆる「オフ懇」。6月1日の午後7時すぎ、赤坂の老舗中華料理店「赤坂飯店」に到着した安倍総理は、乾杯してすぐ、注がれたビールを飲み干した。赤ワイン派の総理にしては珍しく、グイグイと杯を重ねてゆく。持病の潰瘍性大腸炎は大丈夫なのか。出席した記者たちが気を揉むほどの飲みっぷりである。
この日は、午後3時頃に町村信孝前衆院議長の訃報が飛び込んできたばかりで、夜には総理も目黒の町村邸を弔問に訪れる予定だった。町村氏は、安倍総理の出身派閥の元領袖。「今夜、本当にやるのかな」と記者たちは訝ったが、官邸からは夕方「予定通りで」という連絡が入った。
「町村さんは、お気の毒でしたね」
ひとりの記者が水を向ける。しかし安倍総理は、
「うん、そうだね」
「いい人だったよね」
と、まるで他人事のように返す。そして、無表情にいくつかの思い出話を語るのだった。
ところが、話題が安保のことに移ると、総理の口は一転してなめらかに回り始めた。自説をとうとうと述べたてて、こう周囲に同意を求める。
「野党の人は、何でオレに質問しないんだろうね」
「だいたい論点は出尽くしたでしょ。もう議論することなんかないのに」
「(民主党の)岡田(克也代表)さんなんて、いつも同じことばっかり言ってる。意味がないですよ」
「あんなのに答える必要はない。民主党はもう終わりだよ」……。
この4日前、総理は衆院平和安全法制特別委員会で、民主党の辻元清美議員に「早く質問しろよ」とヤジを飛ばし、党内外から猛批判を受けたばかりだった。安保のことはオレが一番分かっている。野党の連中がやっていることは、所詮揚げ足取りにすぎない……酔いのまわった総理は、そんな憤りに身を任せていたのだろうか。
さらに安倍総理は、こうも言った。話題が集団的自衛権のことにさしかかった時である。