家族旅行でデンマーク西部にあるユトランド半島まで足を運んできたのだが、旅行を終えて自宅に戻るために車を運転しているとラジオからニュースが流れてきた。そのニュースでは2つの話題が取り上げられていたのだが、その2つの話題は一見無関係なようではあるが妙なかたちでつながっていると言えなくもなかった。というのは、どちらの話題も「幸福」の問題と関わるものだったからだ。一つ目の話題は世界幸福度報告書の調べでデンマークが世界で最も幸福な国に(またもや!)選ばれたことを伝えるものだった。それとは対照的に二つ目の話題は嘆かわしいものであり、アテネにある人通りの多い広場(シンタグマ広場)で77歳のギリシャ人男性が自殺した1ことを伝えるものだった。その男性は生活苦とギリシャの深刻な経済状況を憂えて自殺に及んだらしい。
(世界中に向けて情報を発信する)国際的なメディアの報道を眺めていると、アテネで起こったこの悲しい出来事は経済危機に見舞われている南欧諸国で広く一般的に見られる傾向を象徴しているかのような印象を受けることだろう。だが、果たしてそうなのだろうか? 経済危機と幸福、そして自殺という三者の間には一体どのような関係が見られるのだろうか?
デンマーク人(私もその一人だ)は大変幸せな日々を送っている一方で、ギリシャ人は悲嘆に暮れる日々を過ごしており自殺も絶えない。そう思われるかもしれない。しかしながら、事実はそうなってはいない。少なくともデンマークとギリシャの自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)を比較する限りではそうなってはいない。デンマークの自殺率はギリシャの自殺率を3倍以上も上回っているのだ。世界保健機関(WHO)のデータによると、2011年度のデンマークでは人口10万人あたり11.9人が自ら命を絶っている計算になるが、ギリシャではその数字(2011年度の自殺率)は人口10万人あたり3.5人という結果になっているのだ2。
興味深い事実はまだある。デンマークの自殺率はPIIGS諸国3のどこよりも高いのだ。ギリシャ以外のPIIGS諸国の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)の数字を順番に挙げると、ポルトガルは7.9人4、イタリアは6.3人5、アイルランドは11.8人6、スペインは7.6人7である。実際のデータに照らす限りでは経済危機の渦中で大勢の人々が自殺に及んでいるとは到底言えないわけだ。南欧諸国は(デンマークを含む)スカンジナビア諸国と比べると自殺はそれほど多くない傾向にあるのだ。
「経済危機の影響で自殺が急増している!」といった筋書きの記事をジャーナリストは書きたがるものだ。大恐慌下のアメリカで高層ビルから身を投げた人々に関するエピソードも広く流布している。しかしながら、そういった類の話は正しくないことが多い。経済危機と国ごとの自殺率との間には概して強い相関は見られないのだ。誤解しないでもらいたいが、経済危機は自殺者の数に何の影響も及ぼさないと言いたいわけではない。経済危機以外の要因の方が(その国の自殺の動向を説明する上で)ずっと重要なのではないかと言いたいのだ(スカンジナビア諸国の冬は長くて暗いという特色があるが、そのような気候条件もスカンジナビア諸国で自殺率が高いことといくらか関係しているかもしれない)。「いや、そんなことはない」と反論する人はどうしてギリシャやイタリアよりもデンマーク(世界幸福度ランキング第1位の国)やフィンランド(世界幸福度ランキング第2位の国)の方が自殺率がずっと高いのかを説明する必要があるだろう。例えば2008年以降のギリシャでは自殺者の数が増えていることは確かだが、そ