こけしって知ってる? #23

23番組の途中ですがアフィサイトへの転載は禁止です:2015/05/31(日) 22:24:27.21 ID:Z4hB84ZV

「なきにんぎょう」

その日の夜、喜一は夢を見た。
あの人形が自分に泣いて縋るのだ。何を言っているのかは分らないが、泣きながら何か頼んでいる感じだった。

朝、喜一は夢の事をおやじに話すと、おやじも同じ夢を見たそうだ。
おやじは夢で人形と会話したらしい。
「普通はこけしを使うからな。金持ちはやる事が違うな。気付かなかった…」
そう言うとおやじは店に入り、人形の着物を剥ぎだした。
「見ろ。背中に文字が書かれてるだろう?」
喜一は、消えかけている文字を目をこらして読んだ。
長々と前置きの後、『亡き子を偲んで…トヨ。』と書かれていた。
喜一の住む辺りでは、水子の霊を供養するときこけしが使われた。
生まれて来る筈だった子の名前を書いたこけしを、1年仏壇に置き、(その間子を作ってはいけない)
その後お払いをして燃やすのだ。
そのこけしを、御悔やみこけし、供養こけし、亡きこけしなどと呼ばれていた。
そう、あの人形は泣き人形ではなく、亡き人形だったのだ。
おやじの話では、人形には母親の念が憑いていた。
子供を流産した上にもう産めない体になってしまった女は、
亡き人形を燃やさず、ずっとわが子の様に可愛がっていたのだ。
その残留思念が人形に残り、燃やされる事を嫌がったのだった。
「寺にもって行かれると、燃やされると思ったんだろう…
 昨日の晩、燃やしたり捨てたりしない事を約束に、寺でお払いを受けると言ったから、もうこの人形が泣く事は無いだろう」
おやじはそう言うと、人形を持って寺へと出かけて行った。

その後、人形はすぐに買い手がついた。
おやじは趣味の悪い金持ちに、人形を燃やしたり捨てたりしない事を約束させて高値で売り、
亡き人形は喜一の前から姿を消したのでした。

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