カジノ法案提出 依存症対策も政府に丸投げか
カジノの負の側面を直視し、具体的な対策を示さなければ、とても国民の理解を得られまい。
自民、維新、次世代の3党が、カジノなど統合型リゾート(IR)の推進法案を衆院に再提出した。
法案は、超党派の議員連盟が作成した。
刑法の賭博罪に問われるカジノを解禁したうえ、ホテル、商業 施設などと一体化したIR整備を進める内容だ。
詳細な制度設計はすべて政府に委ね、1年以内に実施法を制定するという。
法案は2013年12月に国会に提出されたが、昨年11月の衆院解散により廃案になった。
公明党に加え、自民党の一部にもカジノ解禁に慎重論があり、成立の見通しは立っていない。
しかし、議連関係者には、20年の東京五輪までにカジノを建設するため、とにかく今国会中に法案を 成立させたいという、安易で前のめりな姿勢が目立つ。
疑問なのは、社会問題になりかねないギャンブル依存症の人の増加について、政府に対策を丸投げして いることである。
法案は、カジノ施設への日本人の入場制限について「必要な措置を取る」としているだけだ。
カジノは、競馬、競輪など既存のギャンブルと比べて、賭け金が高額になりがちで、依存症の人が急増する危険性がある。
カジノ客が多重債務に陥れば、犯罪に走ったり、家族崩壊を招いたりする恐れが指摘される。
ギャンブル依存症の疑いがある日本人が536万人に上る、という厚生労働省研究班の推計もある。
これらに伴う社会的コストの拡大を軽視すべきではない。
シンガポールでは、自国民や永住者から高額な入場料を徴収したうえ、本人や家族の申告で入場を禁止できる制度を導入している。
入場禁止者は年々増加しており、20万人を超したという。
カジノは、依存症以外にも、多くのリスクを抱えている。暴力団など犯罪組織の介入や、マネーロンダリング、周辺の治安悪化、青少年への悪影響などである。
議連は、カジノ解禁が外国人観光客の増加や地域活性化に効果がある、と主張している。
だが、そもそもカジノの収益は主に客の負け分で成り立つ。
カジノの収益増は周辺地域の商業の売り上げ減を招くとの指摘もある。成長戦略として筋が良くない。
一連の問題を慎重に吟味し、説得力ある対策を講じることなく、法案成立を目指すのは、立法府として無責任ではないか。
2015年05月11日
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150510-OYT1T50139.html