小2生活科「生い立ち授業」に戸惑い 里親「子ども負担大きく」
学習指導要領に基づき、生活科で児童が自らの生い立ちを振り返る小学2年生の授業について、虐待などさまざまな理由で親と暮らせない児童を養育する里親らから戸惑いの声が上がっている。
「一律の取り組みが、大きな負担になっている子どももいる」。切実な訴えに、専門家も「家族が多様化する中、学校側に配慮が必要」と指摘する。
「本当につらい作業だった」―。小学3年の女児を養育する静岡県中部の里親は、女児が2年生だった今年2月に取り組んだ生活科の授業に苦しんだ。
担任から「名前をつけた理由」「1歳の時に初めてできたこと」などの質問が書かれたプリントを宿題で配られた。絵本の形にまとめるため、思い出の写真などを準備するようにも言われた。
女児が里親の元にやってきたのは小1の時。写真はあったが、実の親と連絡は取れない。担任に相談すると「ありきたりなことでいいから書いて」と返ってきた。
名前の由来や乳幼児期の様子など「想像で書くしかなかった」と里親は話す。女児は直接的な拒絶の言葉こそ口にしなかったが、しばらくは表情が暗く、怒りやすい状態が続いたという。
教員向けの指導書によると、この授業は「これまでの自分の歩みを振り返ることで自身の成長を実感し、今後につなげていく」のが狙い。
別の学校では、親への手紙などと合わせ、参観会で発表するケースもあるという。
ただ、里親家庭や児童養護施設で暮らす児童に配慮する学校もある。
学区内に児童養護施設「静岡ホーム」(静岡市葵区)がある市立安西小では、生い立ちに固執せず、ここ1年間にできるようになったことを振り返りの中心にする。
昨年度、2年を担任した教員は「施設の子どもに限らず各家庭にさまざまな事情がある。生い立ちを追わなくても、自身の成長を感じられれば授業の目的は達成されると思う」と話した。
◇「2分の1成人式」など 任意行事にも課題
小学校で自らの生い立ちなどを調べ発表する機会には、小学2年の生活科のほか、小学4年時、各学校がキャリア教育の一環などとして任意で行う行事「2分の1成人式」がある。
実施する学校数については、県教委も把握していないという。
内容は「10歳証書」の贈呈、合唱の発表などさまざまだが、児童が生い立ちを巻物にして発表したり、親に宛てた感謝の手紙を読んだりする例もある。
生活科や「2分の1成人式」などで児童が生い立ちを振り返る活動について、静岡大教育学部の石原剛志教授(46)=児童福祉=は
「極めて個別的な配慮が必要。やり方によっては子どもを大きく傷つける可能性がある。里親家庭に限らず、虐待、貧困、シングルなど多様な家庭があることを前提に行う必要があり、
教師に力量がなければ成り立たない活動だ」と指摘する。
<メモ>小学校生活科の学習指導要領には「自分自身の成長を振り返り、多くの人々の支えにより自分が大きくなったこと、自分ができるようになったこと、役割が増えたことなどが分かり、
これまでの生活や成長を支えてくれた人々に感謝の気持ちをもつとともに、これからの成長への願いをもって、意欲的に生活することができるようにする」との記載がある。
小学2年の生い立ちを振り返る授業はこの記載をもとに実施されている。
http://www.at-s.com/news/detail/1174193395.html