子連れ記者、「子連れ出勤」を実体験してみた
東洋経済オンライン?2015/5/1 06:00?桜井 麻紀
生後3カ月の子どもと共に東京・青山のモーハウス直営店を訪ねた。来客が絶えることがない小さな店だ
朝、保育園に預ける際の子どもの泣き顔、発熱を知らせる呼び出しの電話、お迎え時間をにらみながらの仕事……。産休後に職場復帰した女性の多くが、一度は「いっそのこと子どもと一緒に出勤できたら」と思ったことがあるのではないだろうか。わが子と離れずに働ける、そんな「子連れワークスタイル」を実践している会社があると聞き、生後3カ月の二男を伴って出掛けた。
■ 授乳しながらインタビューが始まった
「モーハウス」は、いつでもどこでも授乳しやすいようにデザインされた「授乳服」のメーカー。創業は1997年。茨城県つくば市に本社があり、東京青山とつくばに直営ショップがある。
この日訪れた青山店では、女性スタッフがスリングで自分の子を抱きながら接客していた。時にはハイハイするわが子の姿を眺めたり、ぐずればスリングの中で授乳したり、奥のバックヤードで昼寝させたり。来店客の多くも赤ちゃん連れなので、あちこちで泣き声や笑い声が起こる。「男の子? 女の子?」「何カ月ですか」などの会話が始まり、誰がスタッフで誰が来店客なのかもわからない。
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授乳服のサンプルを試着させてもらい、そのまま光畑由佳社長への取材を開始した。途中で子どもがぐずり始めてひそかに焦る私に、光畑社長はすかさず「あなたは右利きですか? 左側で授乳すれば右手でノートを書けるわよ」とアドバイスしてくれる。インタビュー相手の目の前で授乳しながら、何ごともなかったように取材は続行されたのだった。
■ 職場内に子どもがいる風景
「子連れ出勤」と聞くと、託児所の併設などをイメージするが、モーハウスは違う。働く母親と一緒に子どもがいるのだ。仕事に集中できるのか。泣き声が響き渡っているのではないか。パソコンや書類にいたずらされないのか。赤ちゃんを抱きながらきちんとした接客ができるのか。そもそも、生まれて間もない赤ちゃんを職場に連れて行くなんて――。子連れ出勤に対する疑問や意見はいろいろあるだろう。
ところが実際に店を訪れると、こうした懸念はすべて払拭された。赤ちゃんなので当然泣いたりぐずったりするが、接客中でもスリングの中ですぐに授乳できるので間もなく落ち着いてくれる。子どもに話しかける初老の女性客もいれば、育児の相談をする妊娠中の女性客もいて、店内にはのんびりした空気が流れている。つくば市にある本社も落ち着いた空気は同様だ。働いているスタッフの傍らに普通に子どもがいる。邪魔をされることもなく騒がれることもない。
1歳2カ月の長女と子連れ出勤している青山店のスタッフ、海老澤青海さんは子どもが2カ月の頃に入社した。片道約1時間の通勤電車でもし娘がぐずっても、授乳服ならば周りに気付かれずに授乳できるので気持ちに余裕が持てる。店では、接客する海老澤さんをまねて商品の洋服をたたもうとしてみたり、買い物を終えた来店客に手を振ったり、一人前のスタッフのようだ。
本社で商品開発を担当する小林幸子さんは、1歳8カ月の子どもと出勤している。朝9時ごろ車でオフィスに到着すると、まず授乳しながらのメールチェックで1日が始まる。子どもが眠くなったら、オフィスの一画に設けられたお昼寝スペースに寝かせて、書類仕事に集中。ランチタイムには一緒にお弁当を食べている。
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