米国では所得の格差が拡大しているのだから、金持ちにもっと税金を払わせるべきだと考える人が増えてもおかしくはない。しかし、
不思議なことに、ここ数十年ほどの間に起こっているのは、ほぼ正反対の状況だ。
(中略)
全米経済研究所の研究で、ジミー・シャリテ、レイモンド・フィスマン、イリヤナ・クジエンコはこの問題に取り組んだ。彼らはオンライン上で
実験を行い、無作為抽出の米国人に、「運がよかったために、年収が突然25万ドル増えた人の税率は何%が適切か」と尋ねた。
研究者らは2種類の質問を行った。ひとつ目では、収入の増加は今年から始まったとした。2つ目では5年前からとした。
驚いたことに回答者らは、収入が最近増え始めた人のほうを、5年前から収入が増えている人に比べて、1.7ポイント税金を高くすべきだ
としたのだ。
つまり回答者らは、高い所得にすでに慣れている人たちを、あまり再分配の対象にしたいとは思わなかったということだ。その気持ちを表現
すると、こんな感じだろうか。「長い間金持ちでいた人は、おカネが多い状態に慣れているから重税を課すことはフェアではない。だが、最近
金持ちになったのであれば、税引き後の所得が多いことに慣れていないから、格差解消のためにその人たちの税金を上げてもあまり問題は
ない」。
別の研究を見てみよう。再分配についての考え方がグループによってどう異なるかを示したのは、ブルッキングス研究所の定期刊行物
「ブルッキングス・ペーパーズ・オン・エコノミック・アクティビティ」に掲載されたビベキナン・アショック、イリヤナ・クジエンコ、エボンヤ・ワシントンに
よる研究だ。
この研究での衝撃的な発見のひとつに、「年代別のグループの中で、再分配への支持から最も遠ざかっているのは、米国人高齢者の
グループだ」というものがある。
この理解の仕方として、高齢者が全般に保守的になっており、再分配の問題に関しても保守的な考え方を持つようになった、と
考えられるかもしれない。しかし、そうではなさそうだ。研究者らが、中絶や銃規制などのイデオロギー的にデリケートな問題への見方を基に
調整を行っても、同様の傾向が見られたからだ。
研究者らは次のような解釈を示す。高齢者は他のどのグループよりも、社会的なセーフティネット、特に社会保障制度とメディケア(高齢者
向け医療保険制度)から直接的な恩恵を受けている。このように政府からすでに医療サービスを提供されているため、米国の高齢者は、
再分配が拡大すれば既得権を奪われると考えるのではないか――。
2つの研究が示すのは、この問題についての考え方がどれほど複雑で、厄介なものでさえあるかということだ。適切な税率や再分配について
の見解は、たとえば、金持ちは金持ちであることに慣れていると思うかどうか、またすでに政府から給付金を受けているかどうかなど、一見
無関係な要因によって形成されている可能性があるのだ。
すると、問うべきなのは「なぜ米国人は金持ちにもっと課税したいと思わないのか」ではなく、「実際にどんな人が金持ちであると考えられ、
金持ちへの課税により恩恵を受けていると見られている人は誰なのか」なのかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/67403