まだ交通が発達していない昔、武蔵国は海から遠い為海産物の値段が高く
新鮮な魚や貝は貴族などの特権階級しか口にできなかった。
伝承などで「病気の母に滋養をつけたくて殿様の鯉を盗んで食わせた」
「犯人の子供を捕らえて件の話を聞いた殿様は孝行息子に感心して褒美を与えて返した」
などの話があるように珍しい物、高価な物には滋養があるとして珍重された時代である。
天正3年(1575年)戦国時代の常陸国で盗みを働いた少年が当時の大名
佐竹義重の前に連れて来られた。罪状は当主に納めるヒラメを盗んだと言うもの。
浜に行けばヒラメなど珍しくないのに何故にわざわざ献上品を狙ったのか問い正すと
重い病の母に食わせたくて価値のありそうな献上品を狙ったとの答え。
子が親を討つ下克上の世でなんという孝行者と感心した義重は罪を不問にし
「このヒラメはくれてやる。ついでに土産を持って行け。」
とお抱えの医者から高価な薬を出させ
「これは海坊主の粉と言って万病に効く。海無しの武蔵国では貴重なものだ。」
と与え渡した。
二山越えて家に帰った息子は母に海坊主の粉を飲ませた。
「おっかさん、これは常陸のお殿様がくれた海坊主の粉といってそれはそれは貴重な物なのだよ。」
そう言いながら毎日薬を飲ませると何年も寝込んでいた母は1月と経たずに元気になった。
それからこの村では佐竹の殿様と海坊主に感謝と無病息災を願う祭りが毎年行われ
21世紀になった現在でも「埼玉ボーズ」と言う習慣に形を変えて残っていると言う。
【民明書房 関東戦国奇譚第4集 ちょっといい話編 より】
@( ●)(●)@ 疲れた・・・よぅ