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彼女は鞭で床を叩きながら、ぼくに訊《たず》ねます。
「貴様はどこのブタだ?」
「め、メディアファクトリーで、ゼ、ゼロの使い魔を書いているブタです!」
所長の目がつり上がりました。彼女は印刷所の奥を指差します。そこには、一つの石臼が動きを止めています。隣では牛が暇そうに欠伸《あくび》をしています。
「見ろ。貴様のおかげで輪転機が止まっている。わかるか? 貴様のおかげで輪転機が、と ま っ て い る」
「ほんとすいません」
「回せ。ブタに回させてくださいと懇願しろ」
「ブ、ブタに回させてください」
それからぼくは原稿を遅らせた罪を全身の疲労で悔いながら、輪転機を一人で回すのです。重労働です。倒れようものなら、容赦なく鞭が飛んできます。
「ああっ!」
「ああ? ブタが〝ああ〟と鳴くのか? どうなんだッ! どうなんなんだよッ!」
「ブヒ! ブヒヒ!」
「全身の痛みで感じろ! 遅れてすいませんと謝れッ! 謝るんだッ!」
痺れる痛みで、ぼくは思うのです。
ああ、原稿を遅らせてはいけないと。印刷所さんやいろんな人に迷惑がかかるのだと……。