(前略)
優れたデザインは必ず模倣される。これを「下からの破壊」だとすれば、それを想定してアップルが編み出したのが「上からの破壊」モデル
だ。デザイナーに権限を与え、デザインの力で逆に後発製品の陳腐化を狙う。
■製造法まで
だが、「模倣者」も進化する。単純に製品デザインをまねるのではなく、製造法や組織づくりまで含めた経営の手法を取り込みつつある。
「盗んでコピーし、新しいものを生み出す苦闘から逃げている」。アップルのアイブ氏が名指しで批判する中国の小米だ。
アップルにとって不気味なデータがある。ファナックなどの工作機械の中国向け輸出が急増しているのだ。日本工作機械工業会によれば
2013年にいったん落ち込んでいた中国からの受注額は14年に倍増した。
実はこの発注の多くは小米から発注を受けた受託製造サービス(EMS)会社からとみられている。従来スマホの本体の製法は金型で
成型した樹脂が主体。工作機械の需要の多くは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業を通じたアップル向けのものだった。
アップルは宇宙船や高級車に使われていた工作機械を応用してアルミ削り出しのデザインを確立した。小米は単に外観やソフトの見せ
方をアップルに似せるだけでなく、基盤となる製造の仕組みまでも徹底的に取り込もうとしている。
それだけではない。小米の雷軍CEOには脇を固める7人の共同創業者たちがいる。グーグル、マイクロソフト(MS)、モトローラなどで
ソフトやハードを開発してきたエンジニアや工業デザイナーによって構成される少数精鋭の経営チームだ。2月にはMSなどのデザインを
手掛ける中国リゴ・デザインを買収し、アップルの組織構成にも近づきつつある。
これを単なる「模倣」の延長線ととらえるか。それともアップル自身が確立したデザイン資本主義が波及する大きなうねりの一端なのか。
後追いする新興企業の潜在力を見誤り、逆転を許す大企業――。クレイトン・クリステンセン・ハーバード大学教授による「イノベーション
のジレンマ」はジョブズ氏の愛読書だった。アップルと、新たな敵、小米。両社は全面対決をにらみ静かに準備を進めつつある。
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http://www.nikkei.com/article/DGXKZO84299910S5A310C1X11000/