20221027a
どくとりん
9784829504444
敵の主力を完膚なきまでに打ちのめし敵を壊滅させるという壊滅戦の考え方が幅広く流布した壊滅戦の考え方が主流をなすに至ったこの傾向は20世紀後半に至るまで続いていた米国でも壊滅戦の考え方が主流を占めていたがベトナム戦争での教訓の分析を基に機略戦の概念に至った機略戦の考え方は湾岸戦争以来現在の対テロ戦争での作戦行動で実践されてきている戦争の目的は軍事力を投入して敵の抵抗力を打ち砕き目的を達成することにある壊滅戦論者によれば敵の抵抗力を粉砕するためにはなんといっても敵の最も強力な部分すなわち敵の重心を壊滅する必要があるとしたこの点に疑義をはさむのが機略戦論者である機略戦論者といえども敵の重心こそが最大の障害であることを否定するわけではないしかし壊滅戦論者のように軍事力を敵の重心に対して直接集中させてその重心自体を壊滅することだけが最大の障害を取り除く方策なのかという疑問を機略戦論者は投げかける敵の重心を無能力化し敵による攻撃力を奪い去ってしまえば多大な犠牲を払って敵の重心を壊滅させるのと同じ効果があるそのためには敵の重心を重心たらしめている要素を分析しそれらの要素に潜んでいる脆弱性を特定しその弱点に対して攻撃力を集中させる敵の重心を支える重要な柱のいずれかが崩壊すれば重心そのものも安定性を欠き敵の組織的な攻撃力は麻痺してしまうこのように敵の重心に対する正面攻撃を避け敵の決定的脆弱性に対する集中攻撃により結果的に敵の重心に打撃を加えるという立場をとるのが機略戦論者である壊滅戦概念のように戦争の目標を敵の重心を壊滅することに固定した場合我が方の行動や思考は柔軟性を欠くことになってしまう一方機略戦によると敵の重心を支える各種要素に決定的脆弱性を発見しそれらの一つあるいは数個に対して順次あるいは同時に集中的な攻撃を加えることによって結果的に敵の重心を機能不全に陥れることを目標とするつまりシステムとしての敵に対してそのシステムの脆弱性を破壊することによってシステムを制御する指揮系統が麻痺しシステム中枢を混乱状態に陥らせるわけである機略戦とは敵の決定的脆弱性に打撃を加えて敵中枢を混乱状態に陥らせて組織的行動を不能に陥れて勝利を我が物にするといった考え方である壊滅戦と機略戦のいずれの立場をとるにしても敵の重心を無能力化してしまえば勝利は我が物になるわけだが壊滅戦論者の目標は敵の重心それ自体であり機略戦論者の目標は重心を支える決定的な弱点である点が両者の決定的な相違である敵の重心こそが抵抗力を生み出すのであって重心が壊滅的打撃を受けると敵の抵抗力は消滅する戦略レベルにおける重心は指導者あるいは指導的集団である場合が多い重心を最も主要な力たらしめている能力を決定的な能力CCと呼び何故重心なのであろうか?という設問に対する答えとして認識することができる重心がその能力を達成させるために必要不可欠な手段や資源や条件といった構成要素が存在するそれらの要素を決定的な要件CRと呼ぶこのように重心を特定する場合には必ず理由としての決定的な能力CCならびに構成要素である決定的な要件CRも同時に明らかにされる必要があるそして決定的な要件に機略戦論者にとっての攻撃目標である敵の決定的脆弱性CVが存在するのである