まずは画像を見てほしい。高解像度カメラが捉えた、この奇妙な塊はなんだろう? 動物か、植物か、それとも鉱物?
【動画】微生物が獲物に「銛」を打ち込み引きずる貴重映像
実はどれでもない。これは渦鞭毛虫(うずべんもうちゅう)と呼ばれる単細胞生物で、動物でも植物でもない原生生物に分類される。地球上の生命というより、エイリアンのような形をしているように見える。
この生物を観察したカナダ、ブリティッシュコロンビア大学の生物学者グレッグ・ガベリス氏は、「顕微鏡で観察すると、装甲に身を固めて疾走する宇宙船のように見えます」と言う。「別の渦鞭毛虫に出会うと、相手に対して小さな飛び道具を繰り出します」
事実、この海洋プランクトンたちは軍拡競争に余念がない。ガべリス氏らは最近、渦鞭毛虫のなかでも特に戦いに適応した体をもつ、ポリクリコス属とネマトディニウム属に関する論文を発表した。
武装して戦うプランクトン
ガベリス氏らの研究は困難を極めた。野外で渦鞭毛虫のサンプルを収集しても、3分の1程度しか使えなかったという。彼らは、ポリクリコス属とネマトディニウム属の渦鞭毛虫が、ほかの渦鞭毛虫を攻撃するために使う飛び道具のしくみについて、初めて3次元モデルを構築した。
ポリクリコス属の体には「刺胞(しほう)」というカプセルがある。ほかの渦鞭毛虫を見つけると、刺胞が収縮して内部の圧力を高め、針を発射する。針は水中を勢いよく進み、獲物の装甲に突き刺さる。針の根元は長い繊維とつながっていて、獲物をたぐり寄せるための引き綱の役目を果たす。獲物が十分近くにきたら、渦鞭毛虫は自分の細胞膜を脱いで獲物を丸のみにする。
ネマトディニウム属も、よく似た刺胞をもっている。ただ、ポリクリコス属とは違い、11~15個の刺胞が環状に並んでいて、すべてを同時に射出する。そのため、「ガトリング砲」(円筒型に束ねた多数の銃身を回転させて連射を行う機関砲)の異名をとる。
ガベリス氏は、「ガトリング砲での武装は、やりすぎのように見えますね」と認める。けれども、硬化シリカの装甲や毒胞、さらにはさまざまな飛び道具で武装した渦鞭毛虫を本当に食べたいなら、それなりの武器が必要だという。
渦鞭毛虫の戦いは、ミクロのスケールで繰り広げられる。渦鞭毛虫にとっての1ミリは、人間にとってのシロナガスクジラほどの大きさになる。
研究者たちは当初、渦鞭毛虫の刺胞は、クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物の刺胞と遺伝的に似ているかもしれないと考えていた。刺胞動物と渦鞭毛虫は、10億年以上も前に共通祖先から分かれていて、系統樹上でも非常に遠く離れている。それでも、刺胞を持つとわかっている生物は、この2グループしかないからだ。
しかし意外なことに、刺胞動物と渦鞭毛虫の刺胞は、遺伝子を共有しているわけではなく、収斂(しゅうれん)進化(全く系統の異なる生物が、似たような形質を独立に進化させること)の産物であることがわかった。実際、渦鞭毛虫の飛び道具のメカニズムは、刺胞動物のそれよりはるかに複雑だ。
以下リンク参照
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170410-00010000-nknatiogeo-sctch