◇「収入ではないのに」
「架空の収入になぜ所得税がかかるのか。納得がいかない。ただでさえ生活は苦しいのに」。
長崎県島原市のノリ漁師、篠塚光信さん(56)は憤る。
「以前はカレイにアナゴ、何でも取れた。今、有明海はどぶのような状態。とてもじゃないが採算
は合わない」。1998年に漁をやめ、現在は冬場のノリ養殖で生計を立てている。
原告の一人として2010年福岡高裁判決で勝訴し、制裁金も受ける立場になった。ところが
今年3月ごろ、弁護団から制裁金に所得税が課税されるとの説明があった。ノリ養殖の機械代
など負担は大きく、収益は減り続ける一方。確定申告を前に仲間内で動揺が走った。
法廷闘争は有明海再生を願ってのことで「金が目当てではない」。制裁金も漁業者が直接受け
取っておらずプールされている。にもかかわらず、周囲の人から「金がもらえていいな」と心ない
言葉をかけられたこともあった。
「問題の原因をつくったのは国なのに、なぜ私たちが誤解を受けないといけないのか」とため息
をついた。【生野貴紀】