溜まった小説やSS投稿スレ #5

5◆3VwoWSjoHw:2016/11/25(金) 19:18:49.90 ID:tBx/+n3+


あっという間に時間が過ぎて、ふと窓の外に目をやると、学校帰りの子供がたくさん居た。
姉さんがそろそろ帰ってくる。

折よく女の子の方ももうすぐヴァイオリンの稽古の時間だった。

二人は名残惜しく別れを言い、明日また話そうと約束を交わした。

たった数時間だったけど、男の子は心の中に浮わついたような、変な感情を抱いていた。
数時間、数時間。いや、きっと違う。
一目見たその瞬間だろう。
ロミオの気持ちがなんとなく分かった。

程なくして、家のドアがバンと開き、姉が帰ってくる。
机の上に手鏡を置いて慌てて自分の部屋へ戻った。

夕陽が暮れ、母さんと父さんも仕事から戻ると、静かだった家の中が急にうるさくなった。

母さんが、今日も良い子にしてた?と笑顔を張り付けて言うけど、男の子にはどうしても仮面を被っているように見える。
可哀想な子。まるでそう言ってるように聞こえる。

男の子は鏡の奥の女の子について聞いてみる。
母さんはそんなこと知らないわ、と言う。
鏡ってのは本来自分の姿を写すものらしい。

生きる世界が違う男の子と母さんたちとでは、鏡の奥の世界も違うように見えるんだ。
男の子はそれが嬉しかったけど、母さんはそうじゃないみたい。

次の日もいつものように母さんと父さんは仕事へ、姉さんは学校へ行った。
今日も大人しく良い子にしてるのよ。これは貴方のためなんだから。
母さんはそう言い残した。男の子の気持ちを全く理解していないらしい。
かと言って、別に母さんが嫌いという訳じゃない。

急いで姉さんの部屋へ行って、手鏡を覗く。
昨日と同じように女の子はまだ寝ている。

手鏡を前に立て掛けて、机に突っ伏した。
実は寝足りないんだ。
母さんたち以外の人に起こしてもらう。それが好きな人だったら、どれだけ幸せなことだろう。
男の子はそんなことを思いながら、夢の世界に吸い込まれていった。

いつの間にか花畑に立っていた。
赤、黄、青、白、紫、緑。
どれだけの色がそこにあるのだろう。
風が花を揺らして、甘い匂いが漂う。
振り向くと木の椅子が置いてあり、そこにあの子が座っていた。
一歩一歩、彼女に近付く。
彼女はこちらを向いて何か話しているが、風の音でちっとも聞こえない。
もう少し、というところで見えない壁が僕を阻んだ。
叩いても割れない。
彼女の声も聞こえない。
「そっちに行きたいんだ」
僕は声を振り絞った。
「とてもつまらない場所よ」
ようやく彼女の声が届く。
「君が居るなら、どこだって楽しいよ」
彼女は微笑んだ。
「ほら、起きて」
「そうだね。そろそろ」

薄く目を開ける。
甘い匂いではなく、木の机の古めかしい匂いが鼻をついた。

「起きた?」

鏡の奥の女の子が言う。
ゆっくりと体を持ち上げて、ぐーっと伸びをする。

「昨日と逆だ」

男の子がそう呟くと、なんのこと?と女の子は聞いた。

「何でもないよ」

こうしてまた、二人のお喋りが始まった。
幸せな時間。


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