次の日、母さん父さんが仕事に行って、姉さんが学校に行った後、男の子は姉さんの部屋に忍び込んだ。
机の上に置いてある手鏡を取る。
こんなもの買って何が嬉しいんだろう。
手鏡を覗き込むと、その奥にはとても広い部屋と大きなプリンセスベッド、色とりどりの花や絵画が飾ってあった。
え、鏡って凄いな。
どこと繋がってるんだろう。
鏡の奥に手を伸ばしてみても、それは当然のように遮られる。
どうにか入れないかなと、顔を押し付けてみたり足を押し付けてみたりした。
試行錯誤の末出た答えは、鏡ってドアとは違うらしいというものだった。
しばらく鏡の奥の世界を見つめていると、ベッドがもぞもぞと動いた。
どうやら誰か寝ているみたい。
しかしあんな大きなベッドに一人で寝るなんて、贅沢な奴だ!
またしばらくして、布団が勢いよく捲れると、女の子がぐーっと伸びをする。まだ子供だ。
女の子が着ている服、雰囲気、それは男の子が知っている母さんや姉さんといったがさつなものとは明らかに違っていた。
いわゆる貴族ってやつ?
女の子はのそのそ起きて、瞼を擦りながら男の子の方へ歩いてくる。
何故だか「まずい!」と思い、手鏡を机の上に放って自分の部屋へ逃げるように向かった。
ドアをバタンと閉めて深呼吸した。
かわいい子だったなあ。
部屋の中はいつもと同じように、ぽつんとベッドと机が置いてある。
窓の外では馬車と人が行き交って土煙と笑い声が上がる。
男の子が毎日見てきた風景と、なんら変わらない。
でも、男の子の心は凄く高揚していた。