マスター「お前の父の名は乳男。母の名はママ子じゃ」
マスター「仲睦まじい夫婦じゃったよ。どこにでもありふれた、小さな家庭を築いていた……」
マスター「じゃがな、あれはお前が5歳のとき……じゃったかな。一人の女が現れた」
ガキ「まてよ……俺が5歳のときって、俺は両親の顔や名前すら覚えてないんだぞ」
マスター「まぁ聞け。その女は乳男にひどく惚れ込んでおったそうじゃ。妻がいる身と知りながら」
ガキ「……」
マスター「当然、乳男は相手にしなかった。大事な息子も産まれ、仕事も忙しかったからな」
マスター「女は乳男のそんな態度がさぞ気にくわなかったのじゃろう。無視を続ける乳男の妻、つまりお前の母親のママ子をな」
殺したんじゃ
ガキ「」ゾワッ
マスター「乳男は嵐のように怒り狂った。わしが会いに行ったとき、すでにあやつに昔の面影はなかったよ」
ガキ「……」
マスター「女を殺すために乳男はあらゆる手段を尽くした。が、女は死ぬどころかその状況を楽しんでいた」
マスター「なぜなら、女は人外の者じゃったから」
ガキ「……まさか」
マスター「そう、お前が出会った女。サキュバスの咲子じゃ」
マスター「それから乳男は行方をくらました。わしが知っているのは、これだけじゃ」
ガキ「……」
なつみちゃん「……」
ガキ「で、なんで俺が5歳まで両親と一緒だったなんて言うんだよ。さっきも言ったが、俺にはそんな記憶はない」
マスター「……正直に言うが、わしもわからん。わしが話してるうち、お前が何か思い出すのではと……」
ガキ「……なんだよそれ」
マスター「息子と最後に会ったとき、言われた言葉がある」
なつみちゃん「……」
ガキ「……」
マスター「 『親父、いつかお前の店に俺の息子が現れる。そのときは、何も言わずに、ガリガリ君を与えてやってくれ』 」
マスター「わしもその真意はわからんが、きっとお前がここに来ることを知っておったんじゃろう」
ガキ「……」
マスター「じゃからわしは、それを守らなければならない。まだ今日はガリガリ君を食ってはないな?」
ガキ「あぁ……」
マスター「……ほれ」
ガキ「……巨峰かよ」
マスター「ソーダ味は駄目じゃ。わしが好きだから」
ガキ「この前くれたろ。寄越せよソーダ味」
マスター「駄目じゃあああああ!それ以上冷蔵庫に近寄ったら殺すぞ」
ガキ「……」
ガキ「まぁいいけどよ」ガリガリ