「御敷居内 御免なせえ! 仁義、発しさせていただきやす」
「ありがとうでございます。手前、控えさせていただきます」
「御敷居内、借り受けまして、家業、発しさせていただきやす」
「手前、当家のしがない者でございます。御控えください」
「自分は旅のしがないもの。上兄さんから、御控えくださせえ」
「ありがとうございます。再三の御言葉に従いまして、控えさせていただきます」
「早速お控えくださり、ありがとうございやす。自分は粗忽者ゆえ、仁義前後間違えました暁にはご容赦くだせえ」
「向いましたる上兄さんには初のお目見えと心得やす。自分、何某と発しますは、某所の生まれでござんす。稼業上、親と発しますのは、どこそこ一家の何親分。手前名の儀、発しますは、屋号は誰々、名は其々。人呼んで、なんとかと発します。ご覧の通りの風来者。いずれの各所においても、親分さん上兄さん上姉さんに迷惑をかけがちな若輩門に御座いやす。以後面体お見知りおきのうえ、嚮後万端(こうこうばんたん)よろしくお引き回しのほど、よろしく、お頼み申し上げやす」
「ありがとうございます。お丁寧なお言葉、申し遅れまして失礼でございます。手前、当組の当親分に従う若い者。屋号は誰々、名は其々と発します。いまだ稼業未熟の身。以後万事万端、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。先にお手をお上げくだせえ」
「そちらさんから先に、お手をお上げください」
「それでは仁義が立ちません。先にお手をお上げ下せえ」
とどっちが頭を上げるかを譲り合ったあとで、
「では、一緒にお上げ下さい」
「「ありがとうございました」」