鍋はぐつぐつ煮える
牛肉の紅はオークのすばしこい箸で反される
白くなった方が上になる
斜に薄く切られた ざくと云う名の葱は
白い処が段々に黄色くなって 褐色の汁の中へ沈む
箸のすばしこいオークは 三十前後であろう
汚らしいぼろ布を着ている
傍に棍棒が置いてある
酒を飲んでは肉を反す
肉を反しては酒を飲む
酒を注いで遣る女騎士がある
オークより幾ばくか若いであろう
黒色の外套に 鈍色の甲冑をしている
女騎士の目は断えずのオークの顔に注がれている
永遠に渇しているような目である
目の渇は口の渇を忘れさせる
女騎士は酒を飲まないのである
箸のすばしこいオークは
二三度反した肉の一切れを口に入れた
丈夫な白い歯で旨そうに噬んだ