夜中にひとりでラーメン屋に行ったんよ
夜の9時頃だったとはいえいつもより客がまばらで、テーブル席も空いてたんだけどいつものクセでカウンターに座ったんだ
そんで麺をフーフーしたりチャーシュー貪ったり海苔で喉を火傷したりしながら食べてたんだけど、その間ちょくちょく若い女の店員と目が合うんだよ
だいたい20代半ばくらいかな
まあ俺と同い年くらいだった
で、俺はこの店員の接客が苦手だったんだ
というのも、彼女はメニュー聞くときとかラーメンを出すときにじっと目を合わせてくるんだよ
それがほんとすごくて、なんか見つめられてるみたいに感じるから童貞の俺としては目をそらすしかないわけ
まあ別に見つめ返しても良かったんだけど、そうするとちんこが黙ってない感じがしたから遠慮してた
そんな彼女が、その日はカウンターの向こうからチラチラこっちを見てくるんだよ
もうこっちは気が気じゃないわけ
2、3回目が合うだけでも「あっ」って気まずくなるのに、すでに数えきれないくらい目が合ってんの
これもう見つめられてんだろって思い始めて、やたら優雅に振る舞ったりしてたのね
でも実は内心すごく恥ずかしいからほんとはやめてほしいし、なんなら今すぐカウンターの下に潜り込みたいんだけど、そんなことすると意識してるみたいでキモいし、なにより紳士的じゃないからこらえた
で、こっちとしてもラーメン食べるしかないから、とにかく優雅に麺をすすってたんだけど、その間もやっぱりちょいちょい目が合うんだよ
うれしいような恥ずかしいようなとりあえず一旦落ち着きたいっていう複雑な気持ちだった
そんで、なんでそんなに俺のこと好きなんだよしょうがねぇなとか思ってたら、ふと思い出したのね
その日クリスマスだったんだよ
店内をよく見てみるとおっさんしかいなくて、そのおっさんたちもグループで来てた
ひとりで来てんの俺だけだったんだ
思えばおかしかったんだよ
普段は若者もちらほらいるのに、その日だけ来てないんだもの
でもそれは当然だったんだよ、なぜならその日はクリスマスだったから
そんで気づいたわけ
彼女の視線は好意から来るものじゃなくて同情だったんだって
あるいは「クリスマスにラーメンかよ絶対彼氏にしたくねぇ」っていう蔑みの視線だったのかもって思った
すごい恥ずかしかった
別にクリスマスだからどうとか気にしてなかったんだけど、なんか肩身がせまかったんだ
で、テンション下がって
やり場のない感情でいっぱいなわけ
そういえば街がやたらキラキラしてたとかカップルちょっと多かった気がするとかどうして気づかなかったんだろうひとりでドライブなんかしてたからかなとかなんでそもそも俺はひとりなんだろうとかなんでラーメン食べてんだろうとかなんでモテないんだろうとかなんで彼女できないんだろうとかなんで俺は童貞なんだろうとか
いろいろ沸き上がってきたのね
そうやって悶々としてたら、見つけた
怒りのはけ口見つけたわけ
あの女店員
あいつもひとりじゃん
あいつだってクリスマスの夜にラーメン屋なんてむさ苦しいとこで働いてんじゃん
そんなあいつに俺を哀れむ資格なんてないでしょ
そういうのはせめてケーキ屋とかで働いてからにしろって
そう考えたらだんだん落ち着いてきて、なんとか誇りを保てたわけ
そんで、ちょっと仕返ししてやろうと思った
無遠慮な視線も遠くから見ただけで俺のことを判断するその浅ましさもぶっ潰してやろう