ようやくわかった #1

1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2017/11/24(金) 00:38:30.55 ID:XWnB0Wjf

家から自転車で20分ほど走ると、目的地の城址公園に着いた。
遊具は無く、ベンチが幾つか置いてあるだけ。
でも城跡をぐるりと囲うように長い遊歩道が整備されていて、散歩にはちょうど良い。

もう11月の下旬だけど、今日は少し暖かい。
パーカーにジーンズでも、平気だった。

駐輪場に自転車を止め、落ち葉で満たされた遊歩道を歩き始める。
乾いたどんぐりを踏んだ時のパリパリッとした感触や
細い木の枝を踏んだ時のパキッという音が心地良い。

しばらく歩いていると、あくびが出た。続けて、もう一回。
ここ最近、3時間くらいしか寝てないんだった。眠れない理由はわかってる。
「わたしは何になりたかったのか」
ベッドに入るとそればかり考えてしまうからだ。答えが出なくて怖くなる。

今年の4月、わたしは地元で進学校で有名な県立の高校に入学した。
人気があって抽選だった女子バドミントン部にも無事入部できた。
おかげで友達もいっぱい出来た。みんなでカラオケに行くこともある。

授業は難しいけど、何とか平均点以上の成績をキープできている。
テストの結果を見せると、両親も喜んでくれる。

高校生活は順風満帆。楽しいけど、どこか息苦しい。
こんな風になりたかったわけではない。
かといって何かなりたいものがあるわけでもない。

考え事をしているうちに長い遊歩道を一周したので、帰ることにした。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、駐輪場へ向かう。

大通り沿いに進み三つ目の交差点を左に曲がった後、自転車を降りる。
私の家は勾配が急な坂の上にあるからだ。

自転車を押して3分ほど坂を上ると、頂上に着く。
そこはとっても眺めが良い高台になっている。
住宅街を一望でき、私の通っている高校も見える。

再度自転車に乗り家まで向かっていると、ゆっくり歩いている二人のおじさんを見かけた。

一人は学校の方を見下ろしながら、くしゃみをしていた。
卒業生なのかな。母校を見て「随分変わったなあ」とか思ってるんだろうか。

もう一人は、私に背を向けていて表情を窺う事はできなかった。
ただ、まるで空気のように透き通っているように見えた。

一瞬自転車で通り過ぎただけだから、目の錯覚だったんだろう。
でもあの「透き通った」人を見てようやく答えがわかった。私は空気になりたかったんだ。
誰の邪魔にもならずに、それでいて誰もが必要な存在に。
一日を気軽に過ごしたかったんだ。

家に着き、玄関のドアノブを回している時に確信していた。
今日は良く眠れる。ぐっすりと。

このスレッドを全て表示


このスレッドは過去ログです。