「あわよくばそこから親密な仲になって子作りセックスしまくって気持ちいい事を未成熟な身体に教え込みたい」
未だ銃声の鳴り止まぬ旧市街の片隅で、男が不意にそんな事を言い出した。
私は思わず自分の耳を疑った。なにしろ、ついさっき至近距離で迫撃砲弾の炸裂を受けたばかりだ。
おそらく弾着地点は10メートルと離れていなかったのではないか。
思い出すと、全身の神経がバラバラになるような衝撃が蘇ってくる様だった。
あれからまだ一時間と経っていない。どこかしらおかしくなっていたとして、何の不思議もないだろう。
作戦が開始されて早々に指揮官を失い、本隊との合流も叶わないまま戦場で孤立した兵隊にとって、
重要なのは自分がおかしくなったのか、それとも相手が元から頭のおかしい人間だったのかという事だ。
場合によっては、ここで無駄に残弾を減らす事にもなりかねない。
「すまない、よく聞き取れなかった。なんだって?」
「聞こえなかったなら、いい。忘れてくれ」
こんな状況だというのに、相棒は内緒話を聞かれた少年の様な、ばつの悪い顔ではにかんでみせた。
それで聞かなかった事には出来るかもしれないが、聞いてしまった事を忘れる事は出来そうもない。
そうだ。私は聞いたのだ。薄汚れた自動小銃を抱え、爆装したUAVが低空を飛び交う空を眺めながら、
一人でも多くの少女達から笑顔を取り戻すのだと。彼は屈託のない笑顔で、確かにそう言ったのだ。
この世界は何が正しく、何が間違っているのか、もはや誰にも分からなくなっている。
いま私が立っているこの戦場が、それを明確に証明する。まさに混迷を極める今の世界の縮図だ。
しかし、だからこそ、この愚かしいまでに純粋な理想が間違いなどと、誰に言えるだろうか。
「あと、毎日素手でかき混ぜた食事を直接手掴みで与えて匂いを覚えさせたい」
私達が狙撃手に捕捉されてから、既に5時間が経過しようとしていた。