「えっ、えっと」
何故だ? 浮かれすぎたか? 死角から外れたか? そんな失敗の要因など考える余裕もなく『逮捕』の2文字が頭の中を駆け巡り、冷や汗が滝のように流れ出る。言い訳も思いつかない。どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……。
もう何もかも終わ――
「おじさん、お花すきなの?」
「…………へあ?」
過去のフラッシュバックから、自暴自棄のノンストップへと、思考の谷を転がり落ちていた俺は、
かけられた言葉の意味を理解できず、暫し呆然としていた。
聞き間違いだろうか?逃避癖からくる幻聴?
聞き返すべきか。俺が意を決し、おずおずと顔をあげると
「わたしもお花、すきなんだあ」
甘い果実を含んだような笑顔で囀ずる彼女を直視するに耐えず、俺は再び目を伏せた。