彼はそれを力強く溝の中に投げ込んだ。
金魚は沈んだまま出てこなかった。
然し初めの浮いてた奴の方は、どうにも
仕様がなかった。彼は石を拾って投げつけた。
大きな腹がぷかりぷかりと水に揺られて、
向うへ流れて行った。そのうちに彼はたまらなく
嫌な気持になった。
思い切って立ち去ると、掌が両方共ぬるぬるしていた。
我慢が出来なかった。傍の電柱に掌をなすりつけた。
彼はぼんやり考え込んだ。
而も何を考えてるのか自分でも知らないで、下宿に帰った。
石鹸で手を洗ってると、先刻の沈んだまま出て来なかった金魚は、
生きてたのではないかしらという気がしてきた。
それを考えると更に堪らない気持になった。