食事がすむと、妙にぼんやりしてしまった。
「暫く此処に居てもいいだろう、」
と彼は云った。「はあどうぞ、」と給仕は
慌てたように答えながら、片方の眉尻を下げ
口を少し歪めて、変な顔をした。彼は可笑しくなった。
笑を押えて眼を円くしながら、彼はも一脚の椅子の上に
足を投げ出した。見ると、向うの卓子の上の大きな硝子鉢に、
金魚が四五匹はいっていた。馬鹿に大きな
鰭と尾とを動かして悠長に泳いでいた。
彼は立ち上って覗きに行った。上から覗き込むと、
小さな嫌な金魚だった。横から硝子越しに見ると、
大きな立派なものになった。彼は感心した、
自分も金魚を飼って見たくなった。急いで給仕を呼んで勘定を済した。