医者「詳しく聞かせてもらえるかな」
ナース「はい。......私、彼女に本を貸したんです。グルメ小説と、あとは私の好きだった恋愛小説」
医者「......なるほど。それで?」
ナース「彼女、すごく気に入ってくれた見たいで。でも少し夢中になりすぎているというか」
医者「......まあ、入院生活は退屈だろうからね」
ナース「......そうですけど、ちょっといきすぎているです。今日のお昼の時も、私が呼び掛けても呼び掛けても眼中にないみたいに」
医者「......彼女、すごい集中力を持っているんだね」
ナース「でも、本を読んでいるはずなのに、目は本のずっと奥を透かして見ているような感じなんです」
医者「......ふーむ」
ナース「先生、彼女は大丈夫ですよね?」
医者「......大丈夫。大丈夫だよ。心配いらない」
医者「確かに彼女は珍しい症例だけども、あの病気は文字を認識すると、脳の快感を司る部分が反応を起こす、というものだ。ある種の共感覚みたいなものだよ」
医者「とにかく、心配しすぎて彼女を刺激する方が良くない。そういう面でも、しっかり経過を見守ってくれるかい?」
ナース「......はい。分かりました」
医者「よし。......もう一回コーヒーを入れようかな......あ、君も一杯どうだ?」
ナース「......ありがとうございます」
ゆっくりと、運ばれてきたコーヒーを口にする看護師。
湯気のたつ熱々とした苦味が、彼女の不安を少し紛らわせた。