それから、傘屋の少女とずぶ濡れの少年は、ピクニックをしたり、星を見に行ったり、はたまた雷雨の日に古い大木の中で肩を寄せ合い嵐が過ぎるのをまったり、数々の冒険を繰り広げ、物語は佳境へと歩を進めた。
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「......それじゃあ、また来るよ。今日は......この黒猫の傘を借りていこうかな」
そう言って、彼は一本傘を取る。
「ちょっと、それだって売り物なんだから。ちゃんと返してよね」
私は念を押す。その日は、ちょうどずぶ濡れだった彼と出会ってから二月の日で、出会った時と同じ、大雨だった。
彼は、分かってるよ、と一言残して、いつもみたいに前を向いたまま手をヒラヒラ降って去っていく。
本当はもう少し話したかったけど、引き留めなかった。
また明日、いや明後日でも、晴れた日にひょっこり顔を出すだろう。
そう思ったから、引き留めなかった。
次の日も、その次の日も、......一週間たっても、彼は来なかった。
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娘「......どうしたのかな、ずぶ濡れ君......」
ふと我に帰り、物思いに更ける少女。
本はもう残り数十頁しかなかった。
はやく続きが知りたい。だが、同時に結末を知るのが怖かった。
娘「......続きはまた今度にしよう」
そう言って本を置く。辺りを見れば、もうすっかり夕方であった。