............そしてエリカは暴漢を完膚なきまでに叩きのめし、パリの晩餐会へも悠々と時間を余らせ出席した。うふふ。やっぱり私は優雅で素敵だわ......。
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......
「......ぃ......おい............おい、おきろお」
全面を冷たいコンクリートで覆われたその部屋に、ペシリと頬を叩く音がこだまする。
「......?......ここ......は......」
「おお、やっと起きたかお」
少女はまだ、自分の置かれている状況が判然としていないようだった。
「......エリカは......パリの............い
っ!」
しかし、身動ぎと共にズキリと響いた右足の痛みが、少女を夢から連れ戻した。
右足首に、歪な鉄輪と、鎖がはめられている。
中には返しがついていて、少しでも鎖がつんのめれば、それは少女の細い足に噛みついた。
「なっ......なんなの......これっ......」
足の痛みと、恐怖、そして体を自由に動かせない苦痛が、少女を襲う。
「おっおっお。エリカたんおはようお」
この時、少女は初めて男の存在に気づいた。
油の浮いた顔に、フケだらけでボサボサの頭。
だらしない体に毛むくじゃらの手足。
とても美丈夫とは言えない醜男が、気味の悪い笑みを浮かべて立っている。
「......だ、誰よあなたっ......」
「......僕かお?僕は......エリカたんの子供の父親になる男だお」
「はぁ!?......な、なにいってんのあんた!......気持ち悪い......っ!」
男の言動に、生理的な嫌悪感がエリカの背筋に走る。
しかしそんなエリカを見て、男は尚更興奮しているようであった。
「......おっおっ。......いいお。......そういう感じ、最高だぉ......」
恍惚とした表情で顔を近づけてくる男。
きつい口臭と体臭が少女に降りかかる。
「......近寄るな、変態!」
「おっ......エリカたんは、その変態と今から一つになるんだお......」
「......っ!」
ぐに、といきなり胸を揉みしだかれ、恥ずかしさと怒りがわき出る。
男はなおもとまらず、少女の下着の中に手を忍ばせてきた。
「......ふ、ふざけんなっ!」
とっさに顔をふり、男の耳に噛みつく。
男はすぐに少女を降りきったが、耳を少し切ったのか、左頬に血が垂れていた。
「......ってぇーなお。......抵抗は良いけど暴れんじゃねえお」
男は苛立った様子で再び少女を愛撫し始める。
すかさず少女は指に噛みついた。
痛みからか、男は一瞬身を引き、そして次に少女の腹に拳を入れた。
「............ってーなお!なにしやがんだお!」
「......うぐっ......」
腹部に重い鈍痛が広がる。胃が押し上げられ、少女はその場に嘔吐した。
「......このクソアマ、ちょっと攻撃的すぎるお。上下関係をゆっくり教えてやらねえとだお」
コンクリートの床に滴り落ちる吐瀉物を見ながら、何故自分はこんなことになっているのかを自らに問う少女。薄汚れた天井に吊るしてある電球に、羽虫が幾匹集まっていた。