ふう。この感覚は何度も経験している。
困惑したような、怯えたような表情を浮かべるですりんを、じっと見つめるエリカ。
「で?どういうつもり?」
「な、なんの事……?」
「エリカはね、幼い頃から謀略と陰謀の只中を生きてきたの。
盛られた薬を見抜くのなんて、朝食のウー・ブルイエから卵の殻を見つけるより容易いのよ。
もっとも、もしエリカにそんな物を供するシェフがいたら、二度と料理なんて出来ない事になるでしょうけど」
「ッッ!!」
椅子を蹴って駆け出そうとするですりん。
しかし、流れるような動きでエリカが腕を掴むと、一歩も身動きが取れなくなる。
「は、離してッ!」
ですりんは必死にもがこうとするが、
掴まれた腕から全身の力が吸い出されていくように、まるで力が入らない。
「無駄よ。知っているでしょう、エリカが合気道八十段だって」
それでも尚逃れようとするですりんの袖口が捲れあがると、犇めくようないくつもの痣や傷跡が目に入る。
「はあ……大体理解したわ。それじゃあ、案内をお願いしようかしら?」
「何をッ……何処によッ……!?」
「勿論、貴女をそんなふうにしてくれた、素敵な人とやらの所へよ。
お会いさせていただける手筈だったんでしょう?そうね、お茶を一杯頂く時間も必要ありませんわ」
口調は穏やかではあるが、エリカから発せられる激しい怒気に当てられた周囲の客は、一人残らず失神していた。