そして化粧を落としてきたおじさんが、今度は何事もなかったかのように再び訪れて来て、挨拶をしました。
「遠いところご苦労様。所用で迎えに行けなくて申し訳無い。女性が応対しただろう?どうだった?」
「え?」
「綺麗だったか?」
そういうと小太りのおじさんは、私の目を除きこみました。
アイラインと言うのでしょうか?目のあたりが、まだ化粧が落ちずに残っていました。
「なんとも・・・」
あいまいに口だけで返事すると、おじさんはあからさまに機嫌が悪くなりました。
部屋に漂うすえた匂いと、私の脂汗と、おじさんの化粧の匂いが、風も無い六畳に充満していました。
その夜、備え付けのほこり臭くゴワゴワした布団に入り、疲れていたのでむりやり眠りました。
どれくらい時間がたったのでしょうか。暗い部屋の中に複数の動く物があります。
気配というか、音というか、腐ったような匂いと言うか・・・とにかく、何かが私の布団の周りにいるのです。
しかし、私は強引に目を瞑って眠りました。相当疲れてもいたようです。
次の日、いくつかの場所をあたってバイトを探しました。
しかしなかなかに見つからず、喫茶店でコーヒーを頼み、街の喧騒に怯えながら小さくなって寂しい思いでした。
ふと私は、自分のコーヒーカップを持つ手首に目がとまりました。
・・・歯型?
良く見ないと気づかない。しかしはっきりと歯型がついていました。
私は寝ぼけて噛んだのだろうと思いこみました。
私のものよりはるかに小さな歯型がついた手で飲むコーヒーは不味かった。
正直、帰りたかった。
870 :これはもうスカイフィッシュだけの問題ではない:02/01/23 23:15
しかし帰る場所はアパートでした。
おじさんに会うのではないか?と怯えながら、部屋に足早に戻り鍵をかけました。
血なまぐささは幾分収まりましたが、化粧の匂いが新しく残り香として部屋に漂っていました。