俺は今マグナ50を駆っている。
闇のなか、峠、俺は風になる。生まれ故郷へ向かって…。
それは唐突に起きたことだった。いつものように会社から帰宅する。
習慣になっている留守電の再生を始めた時だった。
母からの連絡だった。親父が過労で倒れ、危篤であるとのメッセージが残されていた。
すぐさま愛車であるマグナ50に飛び乗り故郷への長い道を走り始める。
5年前に、高校卒業、大学進学と同時に実家を離れることが決まると、 親父は家計が苦しいにも関わらず俺にこのマグナ50をプレゼントしてくれた。
実家から離れても このマグナがいる限り、俺は寂しくなかった。コイツの中には親父がいるから…。
ショットガンマフラーから奏でられるエキゾーストノートが親父の鼓動のような気がした。
焦る俺を心地よい振動と重低音がなだめてくれる。
『事故を起こさないように安全運転でな。』
不意に親父の言葉がその中に聞こえた気がした。
『親父、死ぬんじゃねーぞ!』
そう叫ぶと俺はアクセルを目一杯開けた。 闇の向こう側、大好きな親父のもとへ向かって…。
どれくらい走っただろうか。あたりは薄明るくなっている。
と、突然何の前触れもなくマグナ50のエンジンがストールした。焦る気持ちとは裏腹に、 セルも弱々しい。
押しがけしてようやく掛かった頃にはすっかり日が昇っていた。
走っていると大型トレーラが数台玉突き事故にて道路が封鎖されていた。
仕方なく廻り道をし病院につくとそこにはただ泣いている母と、冷たくなった父がいた。
先生に話しを聞くと、朝方エンジンが止まった時刻と同じ時刻に他界したそうだ。
父さん僕があのまま走ってたらトラック事故に巻き込まれてた。
父さん、ありがとう…さようなら…
式も終わり落ち着いてきた頃、俺は居間でバリマシを片手に マグナ50のパーツを物色していた。
そんな俺に、すこしやつれた表情の母が生前の親父のことを話しかけてくる。
俺の大学合格を心から喜んでくれたこと、マグナ50をプレゼントすることを 母が反対するものの
「風を切って初めて見える世界があるから」
と 強引に決めたこと、定年後は俺とツーリングするつもりだったこと――。
たまらなくなった俺はバリマシを投げ捨て、キーを掴み、 路駐のマグナ50に跨ると、親父の野生とプライドを載せて走り出した。
『親父!今日は飛ばして行こうぜ!』
いつもよ