誰もいないし #142

142以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2014/02/08(土) 10:53:41.80 ID:gIkuhc0C

俺は今マグナ50を駆っている。
闇のなか、峠、俺は風になる。生まれ故郷へ向かって…。

それは唐突に起きたことだった。いつものように会社から帰宅する。
習慣になっている留守電の再生を始めた時だった。
母からの連絡だった。親父が過労で倒れ、危篤であるとのメッセージが残されていた。

すぐさま愛車であるマグナ50に飛び乗り故郷への長い道を走り始める。
5年前に、高校卒業、大学進学と同時に実家を離れることが決まると、 親父は家計が苦しいにも関わらず俺にこのマグナ50をプレゼントしてくれた。
実家から離れても このマグナがいる限り、俺は寂しくなかった。コイツの中には親父がいるから…。
ショットガンマフラーから奏でられるエキゾーストノートが親父の鼓動のような気がした。
焦る俺を心地よい振動と重低音がなだめてくれる。
『事故を起こさないように安全運転でな。』
不意に親父の言葉がその中に聞こえた気がした。
『親父、死ぬんじゃねーぞ!』
そう叫ぶと俺はアクセルを目一杯開けた。 闇の向こう側、大好きな親父のもとへ向かって…。

どれくらい走っただろうか。あたりは薄明るくなっている。
と、突然何の前触れもなくマグナ50のエンジンがストールした。焦る気持ちとは裏腹に、 セルも弱々しい。
押しがけしてようやく掛かった頃にはすっかり日が昇っていた。
走っていると大型トレーラが数台玉突き事故にて道路が封鎖されていた。
仕方なく廻り道をし病院につくとそこにはただ泣いている母と、冷たくなった父がいた。
先生に話しを聞くと、朝方エンジンが止まった時刻と同じ時刻に他界したそうだ。
父さん僕があのまま走ってたらトラック事故に巻き込まれてた。
父さん、ありがとう…さようなら…

式も終わり落ち着いてきた頃、俺は居間でバリマシを片手に マグナ50のパーツを物色していた。
そんな俺に、すこしやつれた表情の母が生前の親父のことを話しかけてくる。
俺の大学合格を心から喜んでくれたこと、マグナ50をプレゼントすることを 母が反対するものの
「風を切って初めて見える世界があるから」
と 強引に決めたこと、定年後は俺とツーリングするつもりだったこと――。

たまらなくなった俺はバリマシを投げ捨て、キーを掴み、 路駐のマグナ50に跨ると、親父の野生とプライドを載せて走り出した。
 『親父!今日は飛ばして行こうぜ!』
いつもよ

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