なぜ誹謗中傷をするのか
なぜ、彼らはコロナ禍で指導的立場にあった専門家に対して、執拗な誹謗中傷をするのだろうか。共通して見て取れるのは、個人的恨み、ゆがんだ正義感、面白半分、オンラインリテラシーの欠如などの理由である (1)。さらには、数々の心理的バイアスの存在も指摘できる。
個人的恨みというのは、コロナ禍の行動制限などによって、自分の職業や経済的立場に影響が出たというケース(負債、業績不振、倒産、解雇など)もあれば、単に「上から目線で行動制限や感染対策などを指示されたことが気に入らない」という子どもじみたものまでさまざまなものがある。
しかし、これらはお門違いも甚だしい。言うまでもなく行動制限のような強力な措置は、専門家が判断を下すことはできず、助言はしたとしても最終的な判断は政治家が下したのであり、政治判断にほかならない。専門家は、あくまでもその専門知識と専門家としての責任と良心に従って最善の方法を助言しただけである。
しかも、結果を見ても、世界中で日本ほどコロナによる死亡などの悪影響を抑制することに成功した国はないと言っても過言ではない。感謝されこそすれ、恨みを向けられるなどもってのほかだ。
さらに、コロナが猛威を振るい、ワクチンや治療薬もなかったころ、ほとんどの日本人は、進んで感染対策を取り、行動の自粛もしていたはずである。しかし、今になって「そんな必要はなかった」「大袈裟に騒ぎすぎた」などと言うのは、後出しジャンケンのようなもので、後知恵にすぎない。
心理的バイアスとしては、敵意帰属バイアスや因果推論の誤りなどが指摘できる。敵意帰属バイアスとは、相手には敵意などないのに、そこに誤って敵意を読み取ってしまうことを指す。今回のケースで言うと、医師がワクチン接種を勧めたことに対し、自分や社会に対する「敵意」を読み取ってしまい、彼らのせいで混乱が生まれたなどと思い込んで、挙句の果てに攻撃的言動を取ってしまうのである。このような敵意帰属バイアスは、オンライン上の攻撃的言動の原因となりやすいと指摘する研究は数多く存在する (2)。
因果推論の誤りとしてよく見られるのは、前後関係と因果関係を取り違えてしまうことである。たとえば、ワクチン接種後に体調を崩したというエピソードにおいて、ワクチン接種と体調の変化は前後関係にすぎないのに、それを拙速に因果関係であると決めつけてしまう人がいる。この時点では、ワクチン接種は原因(の1つ)であるかもしれないが、そうでないかもしれない。それは綿密に医学的な検証をしないとわからない(検証をしてもわからないこともある)。
極端な言動を取りがちな人たちは、このような曖昧な状況では不安を抱きやすく「曖昧さ耐性」が欠如しているという指摘もなされている (3,4)。曖昧な状況ではストレスを抱き、「0か100か」の極端な白黒思考に陥りやすいのだ。