スズメを撃つのに大砲を使うな。
たとえ目的が正しくても、その過程に行き過ぎがあってはならないという原則を意味する言葉だ。
警察官による発砲、制圧行為といった「実力行使」もしばしばこの文脈で問題になる。
暴走車両への発砲で相手を死亡させ殺人罪に問われたり、職務質問中の突発的な制圧行為が違法とされたりするなど
判断が難しい事例は少なくない。
米国では昨年夏、警察官が制圧の過程で黒人住民の首を絞めて死亡させた一部始終が携帯電話のカメラで撮影され
インターネット上に拡散して市民の猛反発を招いたのは記憶に新しい。
今はだれもがスマートフォンなどカメラを持ち歩き、警察官の一挙一動が市民の目線にさらされている。
そんな“可視化時代”の現場で、要求される「力のバランス」とは-。(宝田良平)
「そういう場合に、引き下がれとは教えていない」
辣腕(らつわん)で鳴るニューヨーク市警のウィリアム・ブラットン本部長は
市警が招いた悲劇に遺憾の意を表明しつつ、取り締まりの必要性に言及することも忘れなかった。
事件が起きたのは昨年の7月17日。ニューヨーク市スタテン島の路上でたばこを不法販売していた
黒人のエリック・ガーナー氏(43)が複数の警察官に取り押さえられ、その後病院で死亡した。
今回のケースが大きな注目を集めたのは、警官による制圧の一部始終を
ガーナー氏の知人が携帯電話のカメラで撮影していたからだ。
動画がテレビ放映され、インターネットにアップされるや瞬く間に市民の猛反発が起きた。
映像を見る限り、確かにガーナー氏は大声で叫び、言うことを聞こうとはしない。
ブラットン本部長の言うように、ここで引き下がる警官はいないだろう。
ただ、ガーナー氏は武器を出そうとしたり、襲いかかったりする素振りは見せていない。
白人警官が背後から飛びかかり、首を絞める「チョークホールド」に及んだのは明らかにやり過ぎに思える。