>>592
仕事が終わった頃には太陽が高く出ていた
築40年の木造アパート六畳一間に帰りそそくさと服を脱ぐ
汗と雨にむれた衣服の内側からは、すえたいやなにおいがする
ああくさいくさいなんて言いながら適当なハンガーにかけた
ぽろり、ズボンのポケットからきらきら光るものがこぼれ落ちた
角の丸いガラスの破片だ
思いがけず持ち帰ってしまったのか
ごみで足の踏み場のない床を爪先だちで歩き、これまた食器とごみであふれた座卓のうすい天板へ適当に放った
カンと軽い音が鳴る
どうこうしようってわけじゃなかった
捨てるのも面倒だからこうして溜め込んでしまう
俺の悪いクセだ
クセだけじゃない
俺には悪いものしかない
肺や胃の内側は羊水のなかにいたころから悪いもので満たされていた
若い頃にはかろうじて維持できていたそれらも今では腐ってしまった
だから俺はからっぽなんだ
そう生まれついたのだ
仕方がないことなんだ
ため息を吐き立ち上がる
くさいくさい衣服をつかみあげ慎ましやかな玄関で幅を利かせている古い二層式洗濯機に放り込んだ
動かすとガタガタうるせぇんだよなぁなんて思いながら今日は銭湯に行くかどうかを考えた