>>190
これぇ
人類最後のタブー―バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは
抜粋
「さて、どういうご相談でしょう」
女子学生が笑みを消し去って、勇気を振り絞るまでに、しばしの沈黙があっ
た。「わたし、やりたいんです!」だしぬけにこんな言葉が飛び出した。
わたしは首をかしげてみせた。「意味がわからないな。何をやりたいというん
ですか」
「きのうの夜、教授が発表でおっしゃったようなことをやりたいんです」
わたしが呑み込めずにいるのが、学生には意外だったようだ。こちらに身を乗
り出す学生の若々しい顔は、熱意で輝いていた。
「わたしの卵子をチンパンジーの精子と合わせて、受精卵を自分の子宮で育てた
いんです。その観察記を、卒論にまとめようと思います」
胸のつかえがとれたような面持ちで、学生はわたしをひたと見つめ、返事を
待った。生半可な覚悟でないのは明らかだった。