一家に生まれた赤ん坊と触れ合いたいゴールデンレトリバー。しかし、近寄る度に大泣きをされる。
見かねた飼い主がライオンのタテガミの被り物をプレゼント。それを付けると、幼児は笑って手を伸ばした――。
世界中で話題を呼んだアマゾンのCM。レトリバーの「人との親和性」を改めて知らしめるものだったが、
それを覆す事件の“現場”は、東京・八王子市の中心部から車で20分ほど。斜面を切り開いて造られた住宅地の中に位置する、60坪ほどの大きさの一軒家である。
注意深く見れば、玄関脇の雨どいには「猛犬に注意!!」と書かれたステッカーが貼られており、自家用車の窓には犬型のステッカーが。
複数ある車止めの縁石も、犬の形のそれだ。
ありふれた愛犬家一家の光景。それが“一転”した悲劇の3日後、インターホンを押すと、被害者の祖父であり、加害者ともなった家の主がドアをわずかに開け、
「気持ちの整理がまだ付いていないので、勘弁してください。すみません……」
と述べると、ドアを閉じた。後ろでは、キャンキャンと吠えたてる犬の鳴き声が響いていた。
■“加害者”は…
「これほどやりきれない事件は珍しいと思いますよ」
と全国紙の社会部記者が言うこの「噛み殺し」事件。発生は3月9日の夕刻のことだった。
犠牲となったのは安田翠(みどり)ちゃん。祖父母宅から車で20分ほど、同じ市内のアパートに母親と暮す10カ月の女児だ。
木曜日の朝、いつも通り保育園に預けられた翠ちゃんは、程なく発熱。仕事中の母親は、引き取りを父母(翠ちゃんの祖父母)に頼んだのである。
記者が続ける。
「お母さんはシングルマザーで、普段から祖父母に引き取りを頼んでいたそうです。その日も祖父母は孫娘を連れて帰り、家の1階リビングで遊ばせていた。
この家は、小型犬2匹と秋田犬、そして、大型犬のゴールデンレトリバーの計4匹を飼っていました。
部屋の中にはケージがあるものの、レトリバーは放し飼いにしていたそうです……」
16時半。一瞬の出来事だった。リビングをハイハイして進む翠ちゃん。そこに横からレトリバーがいきなり入り込み、翠ちゃんの頭にガブッと噛み付いたのだ。
「慌てておばあちゃんが“ダメよ!”と言うと、犬はすぐに翠ちゃんを離したそうです。しかし噛まれた場所が場所で出血も見られた。
すぐに祖父が119番通報し、翠ちゃんは近くの病院に搬送されました」
レトリバーは4歳のオス。人間にして30歳前後といったところだろうか。体重は40キロ弱。体高は50~60センチ。
一方の翠ちゃんは平均的な発育であれば、体重8キロ、身長は70センチといったところであろう。自分より5倍も重い獣に噛み付かれた翠ちゃんの危機は明らかだった。
「搬送された時はまだ息はありましたが、2時間後に病院で息を引き取った。死因は出血多量か外傷性ショックと見られています」
祖父母にとって、翠ちゃんは大切な孫だったという。10カ月と言えば、ハイハイもだいぶ速くなり、つかまり立ちも始まる時期。
日々はっきりと見える成長が嬉しくないはずはなかろうが、それが一瞬にして断ち切られたばかりか、自らは警察の捜査対象の身となってしまったのである。
「所轄の南大沢署が捜査を開始。過失致死、あるいは、重過失致死での立件を視野に入れていると思われます。
取り調べに祖父は“むしろ臆病な犬だった”“吠えたり噛んだりもしなかった”と述べています。一方、“加害者”のレトリバーは南大沢署に預けられ、処置を待つ身となっています」
被害者感情を考えれば、「