「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」 「あたりまえさ。親分の書きようがまずいんだ。あすこへ、いろいろ注文が多くてうるさかった でしょう、お気の毒でしたなんて、間抜けたことを書いたもんだ。」 「どっちでもいいよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉れやしないんだ。」 「それはそうだ。けれどももしここへあいつらがはいって来なかったら、それはぼくらの責任だ ぜ。」
「呼ぼうか、呼ぼう。おい、お客さん方、早くいらっしゃい。いらっしゃい。いらっしゃい。お 皿も洗ってありますし、菜っ葉ももうよく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜っ葉 をうまくとりあわせて、まっ白なお皿にのせる丈けです。はやくいらっしゃい。」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌いですか。そんならこれから火を 起してフライにしてあげましょうか。とにかくはやくいらっしゃい。」
二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしゃくしゃの紙屑のようになり、お互にその 顔を見合わせ、ぶるぶるふるえ、声もなく泣きました。