801サロン@チラシの裏避難所 149枚目 #276

276名無しさん@Next2ch:2015/05/23(土) 12:03:52.83 ID:???

>>267


全体として「なんと、全部ヴァーバルの即興の作り話でしたー」という映画なわけだが、全部とは言っても、もちろん本当に全部ではなく、ヴァーバルの話には現実との繋留点がいくつもある。例えば「サンペドロ港で貨物船が爆発炎上、大勢が死に、近くでヴァーバルが発見された」のも、その6週間前にNYで5人の前科者が拘束され、「面通し」で一同に会したのも、(作品世界内では)事実だろう。5人のうち、キートンの拘束にはデビッド捜査官が先頭に立っている。キートンの取り調べもデビッド捜査官が主導したと考えるのが自然で、だとしたら取り調べでのキートンの発言は事実だ(キートンがしゃべった内容が事実、という意味ではなく、キートンがそのようにしゃべったことは事実、という意味)。というか取り調べで何を言ったかは警察に記録がある(逆にヴァーバルは自分以外の取り調べは見てない。あそこは事件回想シーンのうちで唯一、ヴァーバル視点でない場面だ)ので、まあ5人とも、あのようにしゃべったことは事実だろう。

タクシーサービス襲撃事件も、ディテールはどこまで本当なのかわからないが、事件そのものは実在したに違いない。でなければ「NYにそんな事件の記録はない」と、デビッド捜査官がどやしつけたハズだから。ということは、ロサンゼルスで宝石商とそのボディガードを殺害したという話もたぶん本当だろう。でなければ「ロスにそんな事件の記録はない」と、デビッド捜査官がどやしつけたハズだから。また、炎上した貨物船の生き残り(全身火傷)がカイザー・ソゼという名の悪魔を目撃したと語り、ひどく怖れているのも事実だ。ラストには運転手としてコバヤシが登場する。コバヤシという名前はマグカップの裏から取ったでっち上げだが、「コバヤシに相当する誰か」は実在したということだ。

こうしてみると、デビッド捜査官に対するヴァーバルの証言は「全部作り話」どころか、むしろ「固有名詞以外はだいたい本当」ということになり、「全部ヴァーバルの作り話でしたーっ」というこの映画の鮮やかなキモが、ずいぶん色褪せて感じられる。ヴァーバルが、固有名詞を仮名で語るべき必然性は何なのか。「コバヤシ」以外は全部実名でしゃべっても、べつに支障なかったのではないか。

「全部ヴァーバルの作り話だった」と察した瞬間のデビッド捜査官の驚愕は理解できるが、よくよく考えてみれば「固有名詞をすり替えただけで内容はだいたい事実」なのである。よく考えると、大したことじゃない。また、「全部ヴァーバルの作り話だった」と察した瞬間に「げっ、じゃあヴァーバルこそがカイザー・ソゼかっ」となるのも感覚的にはわかる(というか、映画の作りがそういう感覚を誘導している)けれども、よく考えると「全部ヴァーバルの作り話だった」からと言って「ヴァーバルこそがカイザー・ソゼ」とはぜんぜんならない。

いやお前さっきから「よく考えると」連発してるけど、考えるなよ、ドントシンク、フィール!!! と言われそうだが、「緻密な伏線、驚愕のラスト!」とかさんざん聞かされてから観て拍子抜けした者は、よく考えながら見返し、思い返してはよく考えてしまうんだよしょうがないじゃん。


全体として「なんと、全部ヴァーバルの即興の作り話でしたー」という映画なわけだが、全部とは言っても、もちろん本当に全部ではなく、ヴァーバルの話には現実との繋留点がいくつもある。例えば「サンペドロ港で貨物船が爆発炎上、大勢が死に、近くでヴァーバルが発見された」のも、その6週間前にNYで5人の前科者が拘束され、

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