ペレルマンの論文は、思ったほど長いものではなく、途中途中がかなり省略されていた。 ポアンカレ予想の難しさもあって、数学者たちの査読は数年がかりとなっていた。
そこにしゃしゃり出てきたのが、朱熹平と曹懐東という中国人数学者である。「亜洲数学」という中国の数学雑誌の2006年6月号に「我らこそポアンカレ予想の完全な証明を行った」と言わんばかりに論文を掲載したのだ。
その論文のアブストラクトには、「不完全であったペレルマンの証明には致命的欠陥があったので、自分たちが完全なる証明を行った」とあった。
数学の論文の世界では、少しでも間違いがある証明をしても意味がなく、最終的に何ら瑕疵のない証明を行った者が真の証明者となる。 だから、朱熹平と曹懐東は、自分たちがポアンカレ予想を証明した人間であると主張した。
それだけだったらまだよかったのだが、ハーバード大教授で、アメリカと中国の数学界に大きな影響力を持つ中国系アメリカ人の丘成桐が出てきた。 大物数学者の丘成桐が朱熹平と曹懐東の主張を後押ししたのだ。