【相場の細道】スコットランドと北アイルランドの乖離
「イギリスの政府は変わらなくてはならないと、皆さんは明確に意思表示しました。そして、判断として意味があるのは、皆さんによるものだけです。皆さんの怒りと落胆を聞きました。私はこの敗北の責任をとります」(スナク第79代英首相)
2024年7月4日に投開票された英議会下院選挙(定数650)では、スターマー党首率いる最大野党・労働党が209議席を増やして411議席の単独過半数を獲得して、14年ぶりの政権交代を実現させた。182議席が、保守党(中道右派)から労働党(中道左派)に転じ、保守党は251減の121議席に落ち込んでいる。
しかし、労働党は211議席増やしたものの、得票率33.7%は2019年の前回総選挙に比べて1.6ポイントしか上がっていない。保守党は、251議席を失い、得票率が20ポイント減の23.7%だったことで、保守党の自滅だった。
1. スコットランド
英北部スコットランドの独立運動を主導してきたスコットランド民族党(SNP)は、2019年の獲得議席48議席から9議席まで落ち込み、独立が優先事項ではなくなったことが示された。
SNPは、スコットランドが石油などの資源に恵まれ、スコッチウイスキーなどの飲食産業も盛んなため、独立により、経済、社会、環境面で向上する、という独立の利点を訴えている。また、英国は欧州連合(EU)から離脱したが、SNPは独立後のスコットランドを単独でEUに再加盟させる方針を示している。
2014年に独立の是非を問う住民投票が実施されたものの、「独立反対」が多数を占めた。
英中央政府は独立を認めず、英最高裁は2022年、住民投票実施には中央政府側の同意が必要で、スコットランド単独で投票に踏み切る権限はないとの判断を示していた。
2.北アイルランド
北アイルランドの独立運動を主導していたカトリック系シン・フェイン党が初めて最大勢力となった。過激組織アイルランド共和軍(IRA)の政治部門であるシン・フェイン党は18議席のうち7議席を獲得し、2019年の前回選挙と同数を保った。
プロテスタント系親英政党・民主統一党(DUP)は8議席から5議席に減らし2位に転落し、2001年以来最悪の結果となった。
北アイルランド自治政府のオニール首相は、「アイルランド島の風景が変わりつつあるのは間違いない」と語り、英国総選挙でスターマー党首が率いる労働党が圧勝したことで、英政府、北アイルランド自治政府、アイルランド政府の関係をリセットする好機だと述べた。
アイルランドのマーティン外相は、北アイルランドにおける30年にわたる宗派間の暴力に終止符を打った98年の「ベルファスト合意」の精神を歴代の保守党政権は実際には受け入れていなかった」と述べた。
ハリス首相も「今こそ大いなるリセットの時だ。両国の平和プロセスと将来の可能性に対し、スターマー氏と同じだけのエネルギーと注ぎたい」と表明した。