【相場の細道】8月の円高アノマリー
1.2024年8月のリスクシナリオ
金融市場では、8月は市場参加者がバカンス気分で油断しているせいなのか、金融危機に襲われがちな季節としてトラウマになっている。
今年の8月のリスクは、地政学リスク(ウクライナでの戦争を巡るロシアと欧州の対立激化、中東でのイスラエルとイランの紛争激化)、や日銀の追加利上げ(0.25%)を受けて、世界の資産市場を支えてきた円・キャリートレードが巻き戻されていること、米連邦公開市場委員会(FOMC)による緊急利下げの可能性、などに要警戒となる。
2.「8月の円高」というトラウマ
■ イラクのクウェート侵攻
1990年8月2日、イラクのフセイン政権は、クウェートに侵攻した。1991年1月17日、多国籍軍によるイラク空爆により湾岸戦争が勃発した。
ドル円は、8月2日の高値151.60円から10月の123.70円まで下落した。
■ アジア通貨危機
1997年7月、アジアの新興国諸国で一斉に通貨が暴落し、8月にかけてアジア全体が不況に陥った。ドル円は、5月の高値127.48円から、6月には110.61円まで下落していた。
■ ロシアショック
1998年8月17日、ロシア政府は、対外債務の90日間の支払い停止を宣言した。
ドル円は、8月11日の高値147.64円から9月11日の128円台まで約20円下落した。
■ パリバショック
2007年8月9日、仏銀行最大手のBNPパリバ銀行傘下のミューチュアルファンドが、サブプライムローンの証券化商品の混乱により解約を凍結された。
ドル円は、8月9日の119円台から8月17日の111円台まで下落した。
■米国債格下げ
2011年8月5日、米格付け機関スタンダード&プアーズが、アメリカの長期発行体格付けを『AAA』から『AA+』に格下げした。当時、米国議会は、米国債務上限の引き上げを巡る問題で紛糾しており、デフォルト(債務不履行)のリスクが警戒されていた。
ドル円は、80円前後から10月31日の変動相場制移行後の最安値75.32円まで下落した。
■中国人民元切り下げ
2015年8月11日、中国人民銀行は、中国人民元の対ドル基準値を前日比1.9%切り下げ、その後12日、13日と3日間で約4.7%の中国人民元切り下げを断行した。
ドル円は、125円台から月末の116円に向けて約9円下落した。
■米中貿易・通貨安戦争の勃発
2019年8月1日、トランプ大統領が対中制裁関税第4弾を9月1日から発動する、と表明し、中国商務省は、国営企業に対して米国産農産物の輸入停止を要請し、報復関税措置の発動を表明したことで、米中貿易戦争が再燃した。さらに、中国人民銀行が、ドル・人民元が1ドル=7元以上に上昇することを黙認したことで、人民元安誘導という「為替操作」の思惑が強まり、米財務省は中国を「為替操作国」に認定し、米中通貨安戦争が勃発した。ドル円は109.32円から104.46円まで下落した。
■令和のブラックマンデー
2024年8月5日、日経平均株価は4451.28円(▲12.40%)下落して、1987年10月20日の「ブラックマンデー」の下げ幅3836.48円(▲14.9%)を上回り、「令和のブラックマンデー」となった。NYダウは、1033.99ドル(▲2.60%)下落した。
ドル円は、7月3日に到達した1986年12月以来の高値161.95円から、141.70円まで約20.25円下落した。