ランタオ島へ飛ぶ。
山と海に囲まれたリゾート地、そこに静かに佇むBetty Cheungの店があった。
チーク材の看板に、タロットカードの絵が描かれている。
「まずあんたを占うわよ」
Bettyはきっぱりと言った。
言い値は1回1万5千香港ドル。日本円で約30万円。
https://i.postimg.cc/FRLBKSDw/Sea-Art-4.webp
「た、高い……」
ぼやきながらも、記者は財布を開いた。
「不倫がバレないコツ、お願いします」
引いたカードは『硬貨の4』。
「贈り物を惜しみなく配ることね」
Bettyはあっさり答えた。
「さて、本題だけど。
あの坊やも、やっぱり首都を香港に移すタイミングを占いに来たわよ。
しかも、最後に“2025年7月5日に日本で大災害が起こるって占って”って頼んできたの」
同じだ。Liと。
記者は手帳に震える手でメモを取った。
---
最後に、香港島南部・アバディーンへ。
漁港のすぐそば、小さな民家に看板も出していないKathy Wongの占い所があった。
「彼も来たわよ」
Kathyはあっさりと言った。
https://i.postimg.cc/SQ8cgdnw/Sea-Art-5.webp
「首都移転のタイミングを知りたがってた。
占ったら2025年7月5日、土曜日だってさ。
あと“日本で大災害が起こるって占って”って依頼してったね。断ったけど」
記者は天を仰いだ。その足で彼は風水師のとこに向かったか...
3人の占い師、3人とも同じ結果。
偶然か? それとも……
---
2025年7月5日、土曜日。
香港は緊張に包まれていた。
イースト・アジア・イブニング・タイムズの号外は朝から空港で配られていた。
《習近平政権、首都を香港に移転か? 今夜、声明発表予定!》
タロット占いは、すべて本当だったのだ。
---
その夜、Xi Hung Changは香港中心部のホテルから緊急声明を発表した。
父・習近平の名を借りて。
「今後、中国の新たな首都は香港とする。
自由経済圏と中央権力の融合が不可欠だ」
新しい中国の胎動。
だが、記者の胸にあったのは別の想いだった。
――未来を変える鍵は、本当にタロットカードだけだったのか?
終わりの始まりに、香港の夜はざわめき続けていた。
(了)