https://mainichi.jp/articles/20171012/ddm/008/070/120000c
平和ボケとウルトラマン症候群=東洋大学国際学部教授・横江公美
毎日新聞2017年10月12日 東京朝刊
冷戦崩壊以後、日本では「平和ボケ」という言葉が使われるようになった。 国際社会での「現状認識」の甘さを自虐した言葉だ。現在の北朝鮮への対応を見ると三つのタイプの平和ボケが存在する。
一つめは、本当に困ると最後には正義の味方が現れると信じる「ウルトラマン症候群」である。これに侵されているかどうかは、トランプ米大統領やマティス 国防長官の発言に対する心の声でわかる。「軍事オプションも机の上だ」と聞いた時に、ほっとする気持ちがほんの少しでも表れれば、すでに「ウルトラマン」 登場への期待感が脳内に浸透していると考えられる。「きっとアメリカなら完璧な 撃能力があるのではないか」と希望を抱くのだ。
二つめは「ひとごと症候群」である。トランプ大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長の狂気に巻き込まれたくないと心配する。 だが実際は、北朝鮮の核は日本にとっては隣にある危機である。何もしなければ北の核はそのまま存在する。だが、その脅威については関心を払わない。
三つめは「崩壊シンドローム」だ。「北朝鮮は崩壊する」と思うのも平和ボケの一種である。崩
壊しないかもしれないし、仮にしたとしてもいつするかはわからない。その過程やほかのシナリオを考えないで、将来の「崩壊」を 見越すのは「現実逃避」である。
この三つの平和ボケの特徴は日米の正義の味方の違いに表れている。アメリカのバットマンは人間だ。特別な衣装を身につけることで強くなる。道具つまりは軍事力が人を強くする。一方、日本の正義の味方の典型はウルトラマン。どこからともなく正義の味方がやってくるとの前提がある。時代が変化した今、これからどんな正義の味方が日米に登場するのか気になるところである。