第3章
新しい表現、新しい女性
1890年、パリのエコール・デ・ボザールで開催された浮世絵版画展に感銘を受けたカサットは、歌麿や清長の風俗表現や平面的な画面構成を研究し、女性の日常を描いた多色刷り銅版画の連作を制作しました。日本美術の研究と深い理解は、やがて彼女の油彩画にも変化をもたらし、母子像を主なテーマとする独自の画境を切り開きました。1892年から翌年にかけてシカゴ万国博覧会の女性館のために「現代の女性」をテーマにした壁画の制作に取り組み、新しい時代の女性像の表現を展開していきます。1893年デュラン=リュエル画廊で開催された回顧展が高く評価されて、パリの美術界で確固たる地位を築き、1904年にはフランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ章を受章しました。また、ハヴマイヤー夫妻をはじめアメリカの美術品コレクターのアドバイザーとして活躍し、アメリカの近代美術の発展にも寄与したのです。晩年は視力を失って作品の制作から遠ざかり、1926年、82歳でル・メニル=テリビュの自邸ボーフレーヌ館で亡くなりました。