>## 短編小説『セクハラ・ポリスの栄光と挫折』
私はドラネオス・ウーマン。
日照り続きの大干魃(drought)と、獲物を絡め取る蜘蛛の巣(araneose)。
https://i.postimg.cc/05wdbmFg/15.webp
その二つの力を体現する『正義の味方 セクハラ・ポリス』として、長らくこの世界で辣腕を振るってきた。
虐げられし弱き女性を助け、鼻の下を伸ばして言い寄る強き男たちを蜘蛛の巣で絡め取り、干魃のように干からびさせてきたのだ。
https://i.postimg.cc/hj6GxXJh/16.webp
ベルリンの壁が崩壊し、西側先進国に旧共産圏からの移民の波が押し寄せたあの時から、私の戦いは始まったと言えるだろう。
共産党や社会党、民主党、労働党といった左派政党に洗脳された彼らは、新天地での政治的地位向上を目論み、『男女共同参画』や『男女の形式的平等』といったプロパガンダを声高に叫んだ。
https://i.postimg.cc/zBjsZ6NN/3.webp
極貧生活から逃れようとやってきた彼らも、集団就職で東北の寒村から京浜工業地帯に流れ込んだ少年少女たちも同じだった。
男たちと肩を並べて働くことこそが、最も尊い女の生き方だと、私たちは固く信じて疑わなかったのだ。
「西側のブルジョア大企業は、私たちの労働を搾取するから気をつけねば…男女平等の時代だがら、専業主婦になんど甘んじでねえで、男等と肩を並べで工場で頑張らねば…働がざる者、食うべがらずだべ…」
そう言ってカンパを集めにやってくる共産党や社会党の明るい御兄さんたちの言葉は、私たち移民や集団就職組の心に深く染み渡った。
https://i.postimg.cc/yYYZHZmC/red-gce0dad48a-640-1-1-1.jpg
一方、西側のぬるま湯に浸かった反革命ブルジョアの女たちは、エリート社員を捕まえて結婚し、裕福な専業主婦、すなわち『お嫁さん』になるのが幼い頃からの夢だったという。
甘ったれたことを!
男女平等の時代に、一方的に女性の性を食い物にする男たちを、私は断じて許さない。
その一念で、鼻の下を伸ばして言い寄る男たちを片っ端から蹴散らし、私は経理のベテランとして副社長にも一目置かれる実力者となったのだ。
そして、男たちの慰み者になるか弱い女たちのために、『セクハラ・ポリス』として今日まで先頭に立って戦ってきたのだ。
私たち『セクハラ・ポリス』は、貧しい移民として雪崩れ込んだ西側先進国で、はたまた集団就職によって流れ込んだ京浜工業地帯で、助けを必要とする女たちのために、時効も犯罪構成要件も叩き壊して西側先進国に君臨して我が世の春を謳歌してきた。
過去のセクハラ事件を掘り起こし、些細な言動を針小棒大に騒ぎ立て、泣き寝入りしてきた女たちの代わりに、強欲な男たちを糾弾してきたのだ。
その結果、多くの男たちが社会的地位を失い、失意のうちに去っていった。
女たちは私たちを救世主のように崇め奉り、私たちは正義の鉄槌を下す快感に酔いしれた。
https://i.postimg.cc/P573ZhXN/4.webp
ところが、である。最近どうも様子がおかしい。
行く先々で、まるで蜘蛛の巣に自ら飛び込んでくる獲物のように、男たちが待ち構えているような気配を感じるのだ。
そして、これまでのように一方的に男たちを追い詰めることができず、逆に返り討ちに遭うことが多くなった。
先々週、田舎の姪にせがまれ、付き添ったパンク・ロック・フェスでのことだ。
けたたましいギターの音と、観客たちの異様な熱気に当てられた私は、