>短編小説『肉食系女子で何が悪い』
>成田空港に降り立った瞬間、Maria Clara Rodriguesは深呼吸を一つして、隣のLorena Santosに目をやった。
>「ついに来たね、日本!」
>「やっとよ。アニソン聖地巡礼の旅、スタート!」
>ふたりはサンパウロから来た21歳の大学生。日本語はアニメとYouTubeと独学で覚えた。日本文化に憧れて、ついに念願の初来日だ。
>滞在3日目、東京・渋谷のカフェ。ふたりはスマホを並べて、ネットニュースを読みながらアイス抹茶ラテをすする。
>「Lorena、またこのニュース出てるよ。セニョール石橋貴明の“下半身露出”事件ってさ、何回繰り返すわけ?」
>「それな。10年以上も前の話でしょ? しかも証拠ゼロ。なに日本のマスコミ、ネタ切れなの?」
>Mariaは首をかしげながらスクロールする。
>「記事読む限り、暴行も脅迫も薬もなし。女性が呆れて帰っただけって、え?それだけ?」
>Lorenaは鼻で笑った。
>「密室で下ネタってだけで騒ぐなら、私らブラジル人は日常的に死んでるね。てか、セニョール貴明、イケメンじゃん。私だったら全裸で密着Lambadaいけるよ、普通に。」
>Mariaも乗ってくる。
>「うんうん、わたしも! 踊るだけなら不倫じゃないし、むしろ名誉!」
>ふたりは笑いながら、隣のテーブルのサラリーマンたちの視線に気づいて、声を抑えた。
>「それにしてもさ、垂れ込んだ女ってさ…たぶん“蜘蛛の巣女”だよ。頭はいいけど色気ゼロで、プライドだけ高いタイプ」
>「でた、“高学歴プライド先行型”ね。26人の弁護士連名で報告書とか、意味不明すぎる」
>「私たちみたいな肉食系女子に相手してもらえば良かったんだよ、セニョール貴明も中居クンも」
>ふたりはカフェを出て、原宿方面に向かう途中、竹下通りでふと足を止めた。Mariaが小声で言う。
>「2002年のZONEのMIZUHOちゃんの話、知ってる?」
>「知ってる。番組中で“先っちょ”って渾名つけられて、BPOにまで行ったやつでしょ?」
>Mariaが眉をひそめる。
>「20年以上前からセニョール貴明がそういう人って分かってたのに、今さら“下半身露出されてショックでした”とか、ないよね」
>「それな。自分が肉食系じゃないなら、最初から飲み会行くなって話。てか、本人が行きたくて行ったんでしょ?」
>ふたりの足取りは軽い。だけど会話は冗談半分、怒り半分だ。
>Lorenaがふと真面目な表情になる。
>「でもさ、イジメって、黙ってると悪化するって言うじゃん」
>Mariaは頷く。
>「うん。MIZUHOちゃんもさ、『お前の目、乳首みたいだな』ぐらい言い返せたら良かったのに」
>「はは、それはキツい。でも確かに、ああいう場では一発ギャグ的に返せば場が変わるんだよね。彼女、15歳でデビューしたてだったんだよね。無理か」
>「でも、周りに大人いっぱいいたのに、誰もフォローしなかったってのが一番ダメだよね」
>Lorenaは少し俯いて言う。
>「カメラ回ってるスタジオで、誰も助けない。そっちの方が怖いわ。日本人って、集団だとほんと冷たいんだなって思った」
>Mariaは空を見上げる。
>「勤勉で礼儀正しいってイメージあったけど…実際は違う一面もあるんだなって。支那に抜かれて、ドイツに抜かれて、インドにももうすぐ抜かれるんでしょ?」
>Lorenaは笑いながら肩をすくめる。
>「あと10年でブラジルにも抜かれるよ、き