こんな夢を見た。
マンションのような高層ビルのような、そんな感じのところに私はいた。
ガラス一枚と幾ばくかの闇を隔てた向こう側にたぬきがいた。
私がいるのと同じ作りの部屋の中にたぬきは佇んでいる。そのたぬきが自分のたぬきではなくて敵のたぬきであることを私は知っている。そして、そのたぬきの元へ三日月が向かっていることも知っている。
たぬきの部屋の中には、リアルたぬきが何匹かもふもふしていた。それが何だか羨ましくて、私は携帯電話で『写メください』とメールを打つ。不思議とちゃんと、たぬきの部屋の携帯に届いた。たぬきが不思議そうな顔でメールを見て、何を言ってるんだお前は、とこちらを見た。
口の動きだけで『よろしくおねがいします』と伝えると、何だか擽ったそうに『しょうがねえなァ』と笑った。
おっかなびっくり写真を撮る様子を眺めた。やがて、ピンボケの写真が届いた。何でこんな事させる、みたいな事が書いてあったので、私がもふもふすべきたぬきがそこにいるのは狡いので代わりに尽くすべき、みたいな事を返信した。やっぱり笑っていた。
そのままガラス一枚と幾ばくかの闇を挟んで二人、メールを打ったりお互いを眺めたりした。もっぱら眺めていたのは私で、たぬきはじっとその場に立っている。まだ死んでいない眼差しで、虚空を睨み据えている。三日月が来るだろうドアを真っ直ぐ見据えている。
三日月を呼び戻すことも出来た筈なのに私はそれをしなかった。
三日月がたぬきの元へ到着した時、たぬきは死ぬ。それも分かっていた。お互い分かっていた。それでも何もしなかった。