気持ち悪い。いつまでも続く当たり前の日常の醜さ。どこでだって猫はタイヤの下敷きになって轢死する。母猫だったりする。内臓がぐびゅうとひとまとめにはみ出る。ぐみゅう、と子宮の外に押し出された未熟児の群れが不完全な呼吸器で死へと喘ぐ。一匹だけ耳がひとつだけサンカクヘッドみたいな奇形児が混じっている。
尾崎豊/15の夜をフリーハンズのイヤホンで聴きながらそんな夜を快走するクロスバイク。月を見上げて、「すごく綺麗だ」と呟きが漏れる。見惚れて、気付くことなく車道の猫たちを完膚無きまでに轢き潰して、心地良い夜に感性を浸していった。
そうして、法治上の器物たちはひとかたまりに損害され尽くした。
都市のどこかで野良猫たちはきっと盛っていて、たくさんの命が、死んだり生きたりして種を存続するために、誕生されるのだろう。だから差し引きは、プラス──。
日常。日常。日常──。平和って素晴らしい。
「水槽に浸かる脳の群れと一緒さ。誰もが本物だって信じて疑わなければ、感情は剥き出しになってちゃんと渦巻いてくれる」
自由意思がぶん回ればいい。それは俺自身が心の底から思う『本物世界のビジョン』
虚構育ちだけども、リアリズムオンリーのお話よりも、フィクションも入り混じった謂わゆるマジックリアリズムのお話のほうがよっぽど現実味を帯びている。
『現実味』っていうのは、多分それが本物っぽいかどうか
騙しきればそれは本物。というか世界情勢もそんなんだと思う。トップ層にどれだけ隠し通されても、しっかりと俺は幸せそうに生きている。
まだまだこれから、僕は色んな風になれるんだ。人生を自由意思で選び抜ける。ダメにしたり、良くしたり、それが自分次第で決められる。
自由意思をぶん回せ。ぶん回すだけの精神土壌を整地していけ。やがて内部から生じる不満足で、そのイライラを改善に向けていけ。
【チューリングテスト】ひとりぼっちの人海戦術。
人格をチューリングテストする。
道を尋ねる外国人のフリをさせる。
僕は必要とされているのかな。存在意義は、誰かが意味付けしてくれるって信じてる。そうじゃなきゃ疎外されちゃうよ、世界っていうコンテンツから。
残留し続けよう。
「水槽に浸かる脳の群れと一緒さ。誰もが本物だって信じて疑わなければ、感情は剥き出しになってちゃんと渦巻いてくれる──だからさ
、〈ゲーム〉を続けよう。終わる事なく、永遠と」
【識別】〈シャクハ=アープバイティア〉
【性指向性】♂
【基盤】知能
【容姿】無。
【人工格】〈自由意志の渦〉への執着。頼むから、虚言癖。
【メインシステム】
仮想的な人格を生み出す。ロールプレイングを限定することで、
顔もわからない
思想を感染させる。肉体は疑いを持つ。しかし第三者から
嘘吐き。
【概要】
アイデンティティを失った。本源的自己中心性から解放される
オブリア=シークエンサー〈伝書鳩〉
結晶になった純粋はちみつを、午後の日向が差し込む南窓の縁に置いておく。
さあホットケーキの材料セットを揃え終え今すぐにでもはじめようというところで、最後の最後ではちみつが固まりきっていることに気付いた。
ゾーンオブコントロール。
「誤魔化し続けよう。色んなことが満ちているように錯覚させて、みんなを愉(たの)しませ続けるんだ。自由意志を
手始めに、そうだな──...いや...、手始めと最終目標が同一であることが、いちばんの最良じゃないか。
──決めた。詐欺的な手法を以ってして、学園都市を
── 〈日常〉に染めあげようか 」
実態と現実は常にかけ離れているということはコマーシャル業界が風潮そのものを牛耳る以前から
台所まで裸足でひたひたと向かい、冷蔵庫を開ける。どうしようかと一望し、ピーチリキュールの瓶を取り出した。しゃがみこみ、冷凍室を引き出す。
たくさんの冷凍食品を退け、すると、──〈女の子の頭〉が、埋蔵されていた。
自殺志望の女の子だった。
Momoka[出来ることなら、貴方に殺されたいですね]
Biter[殺されたがってるひとってさ、実際は殺しにくいんだよね。君はまあ、嫌いじゃ無いけど]
掲示板でやり取りをしていた危険思想予備軍のひとりだった。僕の軍勢に即加入してもいいくらい彼女には才能あると踏んでいた。
「すみません、来ちゃいました」
深層ウェブをサーフしていた時、結構いいところで呼び鈴が鳴ったから玄関を開けて応答すると、彼女がいた。黒髪ショートで 、髪先にはパールピンクのメッシュがはいっていて、眠そうな黒眼なのに、──瞳の奥には死に行く覚悟が決まっている頽廃色がまとまっていた。
結構色々位置偽装とか噛ませてるのに、それこそプロの捜査を防ぐくらいがっちりしてるはずなんだけど、良く突き止められたね、と感心する。
掲示板越しの文面から滲みでてくる独特の、頽廃的で刹那的な雰囲気が、やっぱり生身からもフェロモンのように発されていて、ふわりと吹き抜けてくる匂いにくらっとした。
一発で誰かがわかったから、部屋へ招きいれた。
「アリバイも工作してきたので、一思いにやってくださいね」
死は多様な在り方のひとつだと思うんですよね。
一時的な現象として誤魔化す。単なる
だからスプラトゥーンなんだって
んー......書き込める行数が微妙やね
フツーにsage進行のが良いか
最近のスレッド汚しすまぬ
もうちょいリアリズムに寄せてってもいいか
最近はアイデンティティが希薄で、夢から目覚めたばっかしの朝なんかは本当に自分が夢内の登場人物と混じっちゃって、自分っていう個人が定まらなかったりする。
家族とコミュニケーションを交わす際になって反射的な挨拶や仕草が無意識に飛び出て、そんな無意識先行で自分がハッキリとしてくる。無意識に頼ってようやくなあなあで覚えている自分が引っ張りだされてくる。
へけっ、ハム太郎のような声を出して、世間へのやり場のない怒りを唾と一緒に吐き出す
ちんちんの唄
腐敗していく。当たり前の感覚が黴と蛆に溶かされていく。自然界の掟じゃないか──生きる事を取り止めたら、勝手に循環されていくんだ。
生きながら腐っていくことにした。脳だけは生かし続けた。後は目か。終わり行く自分を見届けてたかったから。
孤独死の現場にでもなりそうだな。上手くいったところで、自己満像するだけでやっぱり孤独死の現場になる。
母屋(おもや)の一室。もう財政破綻して檀家の途絶えたお寺には、寂れだけがあった。
小さな仏堂がある。都内の大寺から依頼されたも、書きかけのまま塔婆(とうば)。幾つも幾つも書き終えられずに、中途半端になっている。
そのまま二週間連絡不通でいる。一度だけどこかの誰かのお弟子さんと思しき輩の訪問があった。
そんな気配を悟って、物置き部屋にそそくさと隠れ、うずくまっていた。久し振り過ぎて扉もがたがただし、踏み入れると埃が舞いあがり、無数のダニはそんな塵にしがみついて無重力を体験する。
床にはやっぱり埃一面の新景色だった。うずくまったまま、埃景色に跡を残して這い、汚れた壁に腰を掛けた。はぁ、っはあ。はあっ、ぁっはあ。はあ、はぁ──っ。
これだけのことで、物凄く疲れた。現実の隅っこから隅っこまで走り尽くしたと思ったし、今の僕には実際その感覚で合っているとも思う。
浅い呼吸を繰り返すたびに、埃とダニのワンダーランドを喉にへばりつかす。黴とか菌とかがさらに世界観を増幅させる。口いっぱいに広がる赤いセカイには新しい物語が始まるのだろう。終わりの際まで行き着いた僕とは違って、そこは希望に満ちているのだろう。
歯肉という基礎がほのかに腫れてきた歯々の間には、虫歯菌と自然菌とがはじめての出逢いをしているだろう。ダニはそれをほろほろと慌ただしく見ていることしかできない。唾液でもう溶かされそうだからだ。
扁桃には喉の奥へと行ってはいけないと引き留められた者たちがあてもなくうろついている。
難民キャンプのようなものだ。しかしここで再開を果たしたダニの家族もあったりする。一族が結集したりもした。群れはひとつの匂い玉となる。
そんな感じで肺とか胃とかにもそれぞれのコミュニティが形成される。
そして、上手いこと脳まで辿り着いた菌がいる。侵蝕と死の菌。しかし菌は失敗した。叶わなかったんだ。宿主の終わり行く頽廃への希求。醜い思想の濁流に飲まれて菌は死滅した。
(想像というより、多分事実なんだと思う)、そう思って、一際深い深呼吸をして、カラダのなかのコミュニティを発展させる。そうしてから、物置き小屋を見渡す。
茶ばんだ半透明のカーテンの端では採光がされていて、そんなわずかな窓辺に
りんごがあった。
そう言えば半年前ほどに食べ忘れたりんごがあったような気がする。私財整理の休憩で食べようとしてたのに、こんなところに置き忘れたのか。
りんごは黴の白を帯びて、頽廃の色合いもあったけど、それでもほんのすこし赤かった。強い果実だと思った。
確かスーパーマーケットで購入した海外輸入品だった。農薬が強めだったのかな。
強めの薬とかそういう膜で覆うことができれば、僕も社会を逞しく生きぬくことが出来たのかな。
立ちあがった。ひたひたと歩み寄り、掴んだ。ぐじゅりと空虚をなぞる感触が指先にきた。ただ手には液体がこびりついた。噛み癖でぼろぼろな爪の間についたものをべろりと舐めた。吐いた。僕の内側の赤いセカイが再放出され、死の容易さを思い知ったコミュニティでは思想体系が見直されようとしている。
なんだ、結
なんだ、結局どんなに強い膜で覆ったところで、すべては終わっていくんだね。
寝た。ゲロのうえで仰向けになって、わずかな光と埃とダニと黴と菌と塵とノミとなにかとくだらないと思ってた世の中を愛する事に決めて、死へと寝た。
数日が経過した。水分は欠落し、
もはや悟りに近い。AM2:58。勘で現在時刻を予想する。でも多分当たっている。こんなにも意味が無くて、つまらなくて、それでも孤独が行き着く時間帯なのだから。ずっと過ごして来た時間じゃないか。生きながら死んでいく社会生活でずっといたじゃないか。