6日午後7時半ごろ、広島市安芸区矢野町の山あいの道を、橋本幸治さん(60)は車で広島県呉市の自宅へと急いでいた。車内には妻と長女もいた。
雨が激しく降り注ぐ中、信号で止まった橋本さんの車の前方から、土砂と濁流が押し寄せてきた。車が6台ほど巻き込まれていた。
「これはだめじゃ!」。橋本さんの車も巻き込まれ、しばらく流されて止まった。周りの泥水はどんどん水位を上げていった。
2人の若い男性の姿が見えたのは、そのときだ。流れてきた車の1台から降りた2人は、ひざまである濁流の中、橋本さんたちの車に駆け寄ってきた。
「警察です。逃げましょう」。警察官を名乗る私服姿の2人は、周りの車にいる人たち全員に声をかけて避難を促した。10人が集まった。激しい雨と近くの川が流れる音で、互いの声が聞き取れない。2人の警察官は声を張り上げた。「上の方に避難しましょう!」
斜面の上に向かって数メートル歩くうちにさらに水位が上がり、腰くらい
行方不明の2人は、広島県警呉署交通課の晋川尚人(しんかわなおと)さん(28)と山崎賢弘(かつひろ)さん(29)。6日夜、署での勤務を終え、1台の車に同乗して帰宅する途中だった。
「土砂が来た! 土砂が来た!」。午後7時45分ごろ、呉署に晋川さんから混乱した声で電話があった。同じ頃、父の芳宏さん(54)が晋川さんに電話すると、話し中の音が流れた。もう一度かけたがまた話し中。数分後、3度目の電話をかけると、電源が入っていないとの通知が流れた。
豪雨で立ち往生していた被災者を誘導中に土石流で流され、行方不明の山崎賢弘さん(29)の捜索現場。見守る山崎さんの母親の美智子さん(59、中央)は「大勢の方々に捜していただき感謝しています。今でも息子にどこかで生きていて欲しいと思っています。命があることは普通ではなく、特別なことなのだということに気づきました。警察官として職務を全うした息子を褒めてやりたい」と話した。父親(60、右)は「1分1秒でも早く姿を見せて欲しい」と話した
豪雨で立ち往生していた被災者を誘導中に土石流で流され行方不明となった晋川尚人さん(28)の捜索現場を見つめる両親。母親(右)は「警察官としての職務を全うした息子を誇りに思います」。父親の芳宏さん(54、左)は「身につけているものでも何でもいいので、何か見つかれば」と話した=2018年7月14日
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